京都市旅館稼働実態調査(2019年)

UPDATE :
2020. 09. 01
CATEGORY :
旅館調査

調査結果のポイント

京都市内の旅館の年間稼働率は全国や京都府の水準を大きく上回る

67.6%

2.5pts

京都市内108旅館における2019年の客室稼働率は67.6%と、全国平均(38.8%)や京都府平均(40.8%)を大きく上回った。

市内旅館の客室稼働率は、市内主要ホテル(82.3%)より10%程度低い水準となった。しかしながら、2015年の前回調査における稼働率(70.1%)からの減少幅は2.5ポイントであり、ホテルにおける減少幅7.0ポイント(89.3%から82.3%に減少)と比べると変動が小さい。市内宿泊施設の増加などに伴い、競争環境が厳しくなっている中で、旅館はホテルと比べると市場変化の影響を受けにくく、安定した需要に支えられていることが示唆された。

一方で、年間の稼働率が8割を超える施設の割合は21.2%(前回調査から15.1ポイント減)となっており、高稼働を維持することが難しくなっている状況が伺える。

旅館の最繁忙期は桜シーズンの4月(81.2%)であり、紅葉シーズンの11月(79.7%)が次ぐ結果となった。反対に1月(47.7%)、2月(51.8%)、7月(55.9%)は、特に稼働率が低くなった。

外国人比率は3割を超え、3分の1の施設が外国人による利用を主体に

34.0

4.8pts

市内旅館の外国人比率は2015年を4.8ポイント上回る34.0%となった。京都府(14.3%)や全国(8.8%)の外国人比率も大きく上回り、宿泊客の約3人に1人が外国人という結果になった。また、全体の1/3程度の施設(35.8%)では、集客の6割以上を外国人客が占めており、京都の旅館にとって、インバウンド市場の存在感が強まっている。

市内主要ホテルの外国人比率との差は、2015年時点は5.6ポイントだったが、2019年には12.9ポイント(市内主要ホテルの外国人比率:2015年34.8%、2019年46.9%)まで拡大しており、成長を続けるインバウンド需要が、旅館よりもホテルに多く流れていることが考えられる。

修学旅行客の比率は約3割に達し、他の客層とは異なる季節トレンドを示す

26.7

市内旅館の宿泊者に占める修学旅行客の比率は26.7%となった。一方で、修学旅行客の受入を行う施設の割合は35.8%と偏っており、一部の旅館においては、修学旅行客の重要性が極めて高くなっていることが示唆された。

修学旅行客の割合は、5月、6月、10月が多く、一般の観光客が多い時期とは重ならないことから、宿泊需要の年間を通じた平準化に貢献していると考えられる。

過半数の施設で売上は前年よりも減少。旅館を取り巻く状況は2015年から大きく変化

54.1

約3割の施設にて客室単価が、約5割の施設にて客室稼働率が、前年よりも低下している。こうした背景のもと、全体の54.1%の施設が、「前年よりも売上が減少している」と回答する結果となった。

一方で、2015年の調査では「売上が減少した」と回答した施設は9.1%に留まっている。京都における宿泊需要は日本人客、外国人客共に伸長を続けた4年間であったが、市内の宿泊施設が増えたこと等により、集客減、売上減に直面する旅館の割合が増加している。

旅館に宿泊する外国人客の割合は中国が1位だが、フランスや韓国が大きな存在感を示す

30.8

11.5pts

市内旅館における外国人宿泊客の構成比は中国が1位(35.8%)となり、アメリカ(11.7%)、台湾(7.2%)、フランス(6.9%)、韓国(6.2%)が次ぐ結果となった。特に、韓国とフランスは、旅館における構成比が、市内主要ホテルにおける構成比よりも2倍以上高くなっており、旅館に宿泊する京都観光のスタイルが比較的受け入れられていると考えられる。

2015年の調査と比較すると、旅館における中国の構成比が約5ポイント低下している。一方で、市内主要ホテルにおける中国の構成比は11.5ポイント増加(2015年:19.3%、2019年:30.8%)している。京都市内において中国市場の存在感が強くなる中、旅館においては、中国に照準を合わさずに幅広い国、地域の宿泊需要を取り込んできた施設が多いことが考えられる。

外国人客の旅館での平均泊数は、日本人(1.22泊)の約2倍に

2.05

一般の日本人客は7割以上(74.2%)が1泊2日となっており、土日を利用した旅行などのシーンで利用されることが多いことが伺える。一方で、外国人客においては、2泊(40.7%)、3泊(39.6%)がボリュームゾーンとなっている。この結果、平均宿泊日数は外国人で2.05泊、日本人で1.22泊となり、外国人客は日本人客と比較して約2倍近くの宿泊日数となった。

外国人客、日本人客ともに平均泊数は、市内主要ホテル(外国人2.26泊、日本人1.55泊)よりも少ない泊数となっている。

修学旅行客の宿泊日数は、一般の日本人客よりも長くなる結果となった。

約8割の施設が主体的に外国人客の獲得に取組。デジタル技術の活用を進める施設も

外国人客の獲得に向けた取組については、2015年を上回る約4割の施設が「積極的に取り組んでいる」と回答し、「取り組んでいる」と回答した施設もあわせると、全体の約8割に達した。

外国人客の集客経路としては、海外OTA*1サイトを活用する割合が大幅に増加している。また、外国人向けの宣伝広告では、2015年と比較して「自社ホームページ」を活用している割合は下がったものの、「SNS」や「オンラインの口コミ対策」「Googleマイビジネスの活用」*2等、幅広いツールが積極的に使用されており、デジタル技術の活用が進んでいることが示唆された。

*1・・OTA(オンライントラベルエージェント):インターネットだけで取引を行う旅行会社
*2・・オンラインの口コミ対策、Googleマイビジネスの活用は2015年調査では聞いていない

インバウンド受入環境は4年間で大きく改善され、受入トラブルも大幅に減少

キャッシュレス決済の導入、Wi-Fi対応、外国語対応が出来るスタッフの採用、ベジタリアン対応等の項目で、インバウンドの受入環境整備を行っている施設の割合は、2015年と比較して大きく増加している。

これに伴い、インバウンドの受入によって発生したトラブルや問題点についても、2015年と比較して大幅な減少が見られた。トラブルの発生状況を日本人客と比較すると、「ノーショー(No Show)の発生」に限っては外国人のほうが10ポイント程度多くなったものの、殆どの項目において、日本人と同様の結果となった。

約8割の施設が、外国人客の獲得に向けた取組を進めている中で、京都の旅館における外国人受入体制や受入の経験が着実に蓄積していることが考えられる。

集客減にとどまらず、運営経費増、従業員採用など旅館が抱える課題は非常に多様

旅館経営における課題としては、市内宿泊施設の増加等の影響による集客難についての課題を掲げる施設が最も多く、全施設の36.5%となった。また、施設数の増加に起因する内部的な課題として、従業員の採用(30.2%)や運営経費の増加(29.2%)等に直面している施設も多い。

一方で、設備の老朽化(30.2%)や後継者問題(11.5%)等、歴史ある施設をどのように維持していくのかということを課題としている旅館も多く存在している。

また、働き方改革(28.1%)や離職率(13.5%)等、採用した従業員の働き方についても、多くの旅館が課題を感じており、休業日の設定や労働時間を把握する仕組みの導入等、解決に向けた様々な取組が進行していることが明らかになった。

調査概要

1.目的

当協会では、外国人観光客の増加を背景とした外国人宿泊状況等の推移をタイムリーに把握できるよう、平成26年(2014年)4月以降、京都市内の主なホテルの協力を得て、国・地域別の調査を毎月実施している(データ月報)。※全国で唯一の取組(京都市観光協会調べ)

一方、データ月報は主に「ホテル」を対象とした調査であり、「旅館」における外国人観光客の動向・現状の課題抽出等は調査・分析が進んでいない。そこで、本調査では、「旅館」を対象にした調査を行い、今後の観光客の受入環境整備の推進に向けた基礎資料として広く活用することを目的として、京都市内の旅館に対してアンケート調査を実施した。

尚、現在、新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、京都市内の宿泊客数が減少しているが、本調査は同感染症が顕在化する前の期間を対象とした調査であり、その影響は反映されていない。

2.調査方法

(1)調査対象

京都市内の旅館:166軒(20202月末日時点)

*本調査における旅館の定義:市内の旅館業法に基づく許可施設のうち、京都府旅館ホテル生活衛生同業組合に加盟している宿泊施設。一般的に「和」を基調とした建物、設えとなっていることが多い。

(2)対象期間

2019年1月1日~12月31日(宿泊日基準)の受け入れ状況

(3)調査手順

調査票郵送(必要に応じ、FAX・電話・メール・訪問により調査実施)

(4)回答施設

108軒(回答率65.1%) うち有効回答104軒

3.集計における留意事項

・客室稼働率等、調査対象施設全体の平均値を算出するような集計においては、施設によって規模が異なることを鑑み、施設ごとの総客室数に応じた「加重平均」を行っている。

・一部の集計結果について、京都市および公益財団法人 京都文化交流コンベンションビューローが平成28年に発表した「京都市旅館稼働実態調査(調査対象期間:2015年1月~12月)」と比較することで、直近4年における旅館の稼働実態の推移について分析を行っている。

・市内ホテルとの比較を行う際には、京都市観光協会データ年報(2019)が対象とする市内の主要58ホテルの数値を使用する。

4.その他

本資料の数値を引用する場合は、「出典:京都市観光協会 京都市旅館稼働実態調査(2019年)」を明示してください。なお、報道・メディア媒体への掲載については、下記までお問合せください。

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公益社団法人京都市観光協会 担当:マーケティング課 加藤、堀江、嵯峨

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