「多言語表記とおもてなし」をテーマに「第7回京都インバウンドカフェ」を開催しました(2023年10月18日(水))

UPDATE :
2023. 12. 19

SUMMARY

読み手の立場に立った多言語表記を実現するためには、ピクトを効果的に活用すること、注意喚起はできるだけプラスの表現を使うこと、文化的な内容はより詳しい補足説明と監修が必要であること、情報は絞って整理して伝えること、欧文書体を使うこと等が述べられました。一方で、全てが完璧である必要はなく、事業規模に応じた整備を行うことや、まずは挨拶や重要な単語を覚えて活用するところから始めてはどうかという提案がありました。

2023年10月18日(水)、これからのインバウンド向けコンテンツのあり方を考える交流イベント「第7回京都インバウンドカフェ ~“世界の首都” にふさわしい? 多言語表記から考えるおもてなし~」を開催しました。
日英翻訳者でコピーライターのザッカリー・カプラン氏と、長年にわたりイスラーム諸国の研究に携わられている小杉泰氏をお招きし、外国人観光客向けの案内サインや掲示物、パンフレット等における課題や改善方法についてお話いただきました。背景となる文化や習慣が異なる外国人観光客の皆さんに気持ちよく観光していただく“おもてなし”の一環としての多言語表記のあり方について理解を深めました。後半のグループワークでは、参加者自身の施設で掲示している案内サインやパンフレットを題材に、具体的な改善方法についてディスカッションを行いました。

  1. 対談
    ザッカリー・カプラン氏(Zackary Kaplan Consulting & Translation代表)
    小杉泰 氏(立命館大学立命館アジア日本研究機構教授/アジア日本研究所長)
  2. 質疑応答
  3. グループワーク

1.対談

ザッカリー・カプラン氏の話のポイント

  • 私はアメリカ出身で2011年に来日した。新潟市役所で4年間ほど勤務した後、独立して、通訳や翻訳、ブランディング、情報戦略策定等のお手伝いをしてきた。
  • 多言語表記は、観光客が地元経済に寄与するシステム作りの一環であると思っている。例えば、移動や情報収集に消費するエネルギーが大きいと、楽しいはずの観光が疲れるものになり、落とすお金が少なくなる傾向にある。

重要なことは相手にきちんと伝わっているかどうか

  • 多言語表記の種類、目的、対象者はさまざまであり、それに合わせて基準も異なる。まずは「基礎インフラ」であるが、これは道路標識や駅名などのサインのことで、自分がいる場所や災害情報など人命にかかわる情報である。しかし、今でもこれらのサインや看板に日本語表記しかないところが多い。また、情報が必要な場所にない、あるいは目立つところにないことが課題である。
  • 多言語表記というと言葉で解決しようとしがちだが、ピクトグラム、絵、図、シンボルなどをもっと活用した方がよい。これらは国際基準があるものもあり、見てすぐわかるものが多い。たとえばトイレを示すのに「トイレ」を意味する何か国語もの文字を並べるより、トイレを表すピクトひとつで解決する。
  • 他にも、言葉がどこで使われるかによって表現が変わるのに、そこが考慮されずにそのまま訳されているケースや、英訳の代わりに「Shogakko」「Byoin」などローマ字で表記されて意味が伝わらないケースも見られる。
  • 2点目の課題は「注意喚起」についてである。訪日客にとって、たまに「NOしか言えない街」がある。これは「禁煙」や「立ち入り禁止」といったルールやマナーの啓発が目的のものであるが、「NO 〜」や「Don’t 〜」のようなマイナス要求ばかりが多いと、気を悪くしたり、歓迎されていない気持ちになったりする。気持ちよく従えるように、マイナス表現(「◯◯しないで」)を、プラスの表現(「~しましょう」)に変えるだけで、受け手の印象は大きく変わる。相手が得する情報や相手のニーズに応える表記とのバランスも忘れずに意識していただきたい。
  • 本当に読んでほしいのであれば、並べる情報は3つが限界である。5個10個も並んでいると読まなくなり、結果的に浸透しない。
  • 誤訳やスペルミスも多い。京都市の地下街で「ここではお酒を飲んではいけません」という日本語の注意喚起があったのだが、その下に併記されていた英語を読むと「水を飲んではいけません」という意味になっている。
  • 最後にプロモーションや売り込みの表現についてであるが、例えば楽しさをアピールする表現には、説得力や付加価値(ストーリー)が求められる。観光客の誘致をしたい店舗などにとってはこの部分が一番重要となるが、これが最も難しい。
  • 情報を段階分けすることも、効果的な情報発信のコツである。例えば一つのツールで大量の情報を一度に伝えるより、最初に概要を紹介して、詳しくはこちらをご覧くださいという形で情報を階層別に整理した方が理解が進む。しかし、リンク先に繋げるときは注意する必要がある。ウェブサイトに「詳細はこちらをご覧ください」と書かれていても、その先のページには日本語しかないことも多い。
  • レイアウトやデザインについては、英語と日本語を交互に表記するより、英語のブロックと日本語のブロックを分けてレイアウトすると読みやすい。
  • また、なるべく情報を絞って文字数を少なくすることと、和文書体ではなく欧文書体を使うことが重要である。

文化や価値を伝える内容はより詳しい解説と監修が必要

  • 読み手目線になっておらず、日本人に向けて書かれた文章をそのまま翻訳しているケースが目立つ。特に歴史や文化に関する説明に関しては、その基礎知識や文化的価値観が日本人と外国人では全く違うため、より詳しい解説があった方が良い。
  • 翻訳者として皆さんに知ってほしいことは、文化や価値を伝える文章の英訳には監修がほぼ必須であるということである。文化圏が近い英語からフランス語、スペイン語からイタリア語に訳す場合はそのまま訳しても理解できることもあるが、文化圏が離れた言語だと直訳して成り立つ翻訳は少なくなる。また、ネイティブスピーカーは英語が話せるからと言って翻訳ができるわけではなく、翻訳には専門的な技術が必要だということも知っておいてほしい。
  • 皆さんには、ぜひ身の丈にあった多言語翻訳を考えていただくと良いと思う。例えば、個人商店や地元メインでビジネスをやっているのであれば、多少の翻訳違いがあっても外国人は地元の人から歓迎されるとわかればそれほど気にならない。一方で、高級店や大企業、チェーンの有名店だと、ちゃんとしたプロの翻訳者に依頼できなかったのかと思われてしまい、その結果、他のサービス全般も行き届いていないのではないかという疑念を持たれてしまう可能性がある。自分たちにどのようなコミュニケーションが求められているかを意識して多言語表記を整備することも大事ではないか。

小杉泰氏のお話のポイント

英語だけではない!多言語対応は今後ますます重要に

  • 1998年から2019年までは京都大学で現代イスラーム世界研究を実施し、京大に日本最大のアラビア語文献コレクションを確立した。2019年以降は立命館大学でアジア・日本研究における新しい研究領域を開拓中である。また「京都ハラール評議会」にも参画し、宿泊施設やレストランなどにおけるハラール認証を行う仕事を通じて、インバウンドビジネスをお手伝いしてきた。
  • 私のイスラーム研究はアラビア語を学んだところから始まった。これまで多様なイスラーム諸国、およそ40カ国を訪問してきた。イスラーム文化圏に属する人の数は、いまや世界人口の1/4を占める。それだけ数が多いということは、当然インバウンドビジネスにとっても大切な存在になってくる。
  • 今日のテーマは「多言語対応とおもてなし」であるが、多言語といった時に、英語や主要言語だけではなく、ヒンディー語やハラール語、マレー語なども含めて考えるのがよいと思っている。2023年から急激に復活の動きを見せているインバウンド需要だが、今後は来訪客の増加に伴い、国や人種などがますます多様化していくと考えられるからである。歴史的に見ても、経済がある程度発展するとゆとりができ、海外旅行に行きたいという欲求が出てくる。そうするとこれまで来なかった文化圏の人も、日本に来るようになるが、新興国からの観光客は、英語ができない人が多い。
  • 日本では日本語が大きく表記されていて、英語はおまけのように入っていることが多いが、アラブの現地の標識を見ると、アラビア語よりも英語表記の方が大きくなっている。その理由は視認性が影響しているのではないかと思う。英語などのアルファベット表記は文字数が多く、「Yanaginobamba-dori」と表記すると、しっかりと読まなければわからない。しかし漢字の場合は「柳馬場通」と短く、見たら一瞬で理解できる。しかも先ほどの話にもあったように、「dori」ではなく「street」にしなければいけないという問題もある。これを読むのも覚えるのも英語圏の人にとっては大変なことである。

完璧である必要はなし!多言語対応にあたってまずできること

  • 英語だけでも大変なのに多言語対応となるとさらに難しいと考える人が多いと思うが、そこには日本人の完璧主義が影響していると思う。「完璧に伝えなければいけない」「片言ではダメだ」と思い込むことで、話すことをやめてしまう傾向にある。言葉が通じることよりも、心が通えばいい。「フレンドシップ優先型」の文化圏というのが世界には結構存在する。イスラーム圏などでも、「一緒に食事をしたら友達」という感覚があり、言葉が通じなくても幸せを共有できると彼らは考えている。
  • そこで私からは「三言のマルチリンガル」という提案をしたい。かつてエジプト人の女性と出会った際に、彼女は「私は日本語ができる」というので話してもらったら「こんにちは」「さようなら」「ありがとう」しか知らなかった。でも彼女はそれだけ言えたら日本語ができると言い切ってしまう。そのくらいのおおらかさで良いのではないか。
  • 例えば「ウェルカム、サンキュー、グッバイ」を3ヶ国語、5ヶ国語、10ヶ国語で話せるようにする。また、困ったことが起きた時に必要となる、例えば「医者に行かなければいけない」「そこに入ってはいけない」等、決まった言葉だけでもそれぞれの国の言葉で言えるようにしておくと良いのではないか。外国人だからといってグローバルであるという訳ではなく、留学生の中にも日本が初めての外国という人も多いし、英語ができない人も多い。
  • また、観光案内所で20ヶ国語で10秒会話できるように目指したり、言語ごとに肝となる単語を集めて共有するといったことも考えられる。「通行止め」とか「定休日」「故障」といった、それさえ分かればある程度伝わるような重要単語を現場で収集し、多言語化した「指さし会話」のような、一枚の紙を見せればわかるようなものを観光協会で取りまとめて作るのも良いかもしれない。こういったことに取り組むことで、京都が世界の先進都市だと認識される。
  • 伝統文化などのキラーコンテンツ以外にも、アニメやポップカルチャーなどのニューカルチャーをコンテンツとして打ち出し、アニメのキャラクターなどを活用した看板やサインを作るのはどうか。また、地域固有のマンホールのデザインも注目されており、それを巡る人もいる。地域に伝統的な観光資源がないような場所では特に有効であり、同時に観光客の地域分散化にも役立つと考えられる。

2.グループワーク

質疑応答、休憩を挟んだ後、4つのグループにわかれて、グループワークを行いました。

観光案内所、寺院、クリニック、飲食店で活用している案内ツールを題材とし、作成にあたって悩んだ点などを共有しつつ、改善点等について話し合いました。最後はグループごとに話し合った結果を発表し、講師のお2人からコメントや改善に向けてのアドバイスをいただき、終了となりました。

参加者の皆様からは

「皆様からご指摘いただき、自分では得られなかった気づきをいただきました。」
「内容も面白かったが、いろいろな事業者さんと意見交換できることが楽しかったです。」
「今回のグループ討議は議題、グループ分け共に的確で非常に良かったと思います。」
「外国人とコミュニケーションをうまく取るために日本人では気づきにくい点についてより深くご教示頂けるとより良い内容になったかと思います」

といった感想をいただきました。

次回の「第8回京都インバウンドカフェ」は、1月に開催予定です。引き続きご注目ください。

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公益社団法人京都市観光協会 企画推進課 マーケティング担当

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