本稿では、中国とマカオという特殊な関係性の中での、インバウンド再開に関する考察であったが、日本のインバウンドにおいて、人数、総消費額ベースで最もお得意さまであった中国について、コロナ後の動きについて、少しでも役立ちそうな情報をお届けできただろうか。
中国本土からマカオへの観光目的、隔離無しでの往来は、全面再開から1年半が経過した。ただし、中国の「ゼロ・コロナ政策」により、一時的にも感染が確認された地域では、マカオ訪問への制限や、マカオ側での感染発生に際しても制限がかかるなど、送客側である中国の規制に左右される。結果として、訪問者数は当初の期待通りには行かず、2021年のマカオ訪問者数はコロナ禍前の20%の水準にとどまった。
訪問者の消費額について、2021年第4四半期と2020年同期の比較で83.3%増と、消費意欲の増大は明るい材料である。費目別で、買物が183.3%増と3倍近い増加、飲食も39.1%増と、小売り、飲食業界においては、インバウンド再開後は早急な効果が出てくるだろう。一方で、宿泊費は、消費額ベースでも24.4%減、RevPARベースでは64.6%減(いずれも第4四半期で比較)と、宿泊業界の経営環境は厳しい時期が続くと考えられる。
苦境が続くマカオの宿泊業界であるが、投資意欲は衰えておらず、将来的な需要拡大が見込まれている。マカオ政府土地工務運輸局によると、2022年2月の発表時点で、15軒6,207室分が建設中、19軒1,867室が設計段階にあるという。建設中の客室数だけでも、2020年12月末時点の客室供給数387,000室の16%に当たり、設計中のものも含めすべて完成すると、46,700室と現在の1.3倍の客室数となる見込みだ。
京都に目を移すと、2021年通年の客室稼働率は31.1%、平均客室単価は11,226円、RevPARは3,490円と、19年比で72.6%減(RevPAR)と厳しい状況が続いている。2021年12月単月での比較になるが、STRのデータによると、隔離無しでの海外との往来を加速させているニューヨーク、パリ等の欧米の都市では、回復が鮮明となっており、パリのRevPARは19年同月を5.9%上回っている。ニューヨークのRevPARも約2万5千円、2019年比15.4%減と、金額ベースでも京都の3倍近い収益となっている。
筆書の個人的な見解であるが、国内旅行需要だけでは限界があり、日本も早急にインバウンドを再開し、宿泊、運輸、旅行業界の経営環境の改善を図る必要があると考える。業界をあげてインバウンド再開への声を大きくしていくとともに、多様性の担保や持続可能な経済発展の観点から、インバウンドの重要性に関して、住民理解の向上が欠かせない。