香港へのインバウンド誘致は、香港政府観光局(以後HKTB)が、国内旅行関連産業の発展、育成とともに担っている。この訪問者数減の状況に対して、どのような施策を行っているのだろうか。対消費者、対業界向けに分けて紹介するとともに、不安定な状況におけるイベントの危機管理とそのフォローについて、詳しく見ていきたい。
*今回の抗議活動は継続中で収束の見通しも立っていないことから、施策が揃っていないであろうこと、また現在行っている施策に対しての評価が行えないことに留意いただきたい。
【対消費者向け】
- 電話、現地旅行案内所カウンターでの抗議活動の状況に関する情報提供(プル型)
- 抗議活動沈静化後の、「全世界規模(far-reaching global campaign)」でのプロモーション活動(時期、具体的内容未発表)
【対業界向け】
- 旅行会社に対する誘客インセンティブ提供(香港へのインバウンド客誘致に1人当たり120香港ドル、香港からのアウトバウンドに同100香港ドル、いずれも1社500人を上限に支給予定)
- HKTBが出展する中国本土、海外での旅行見本市、商談会への参加費無料化(2019年10月から2020年3月までが対象)
- HKTBが認証する「観光サービス優良店」の証明書費用の1年間無料化(証明書費用は1店舗2,700香港ドル)
- 観光ガイドの免許更新に伴う研修費用補助(1名当たり1,000香港ドル、研修費用は経験、専門分野により異なる)
このように、現在の施策については主に業界向けのものが多く、対消費者向けについては、事態の沈静化後に焦点を置いているのが特徴的である。また、抗議活動についての状況や、抗議活動が行われている場所や時間以外では、日常生活が正常に行われ、観光に影響がない旨の情報発信は積極的には行われていない。プッシュ型ではなく、問合せが必要なプル型であるのも興味深い。以下HKTBが持つオンラインのオウンドメディアであるが、いずれにも具体的な状況は掲載されておらず、イベント情報や観光情報提供といった、平常時のオペレーションのままである。
http://www.discoverhongkong.com/jp/ (日本向け)
http://www.discoverhongkong.com/eng (英語グローバルサイト)
https://www.facebook.com/DiscoverHongKong.jp/ (facebook日本向け)
https://www.facebook.com/DiscoverHongKong/ (facebook英語グローバル向け)
https://twitter.com/HKTB_JP (ツイッター日本向け)
筆者は、日本政府観光局(JNTO)でのシンガポール駐在時代、2011年の東日本大震災からの復興プロモーションの現場を経験した。その際には、今回のHKTBのプル型とは対照的に、オウンドメディアや新聞やTV等のメディアを積極的に利用し、一部を除き、多くのエリアで日常生活は通常通りであることや、放射線量について、シンガポールや主要都市を比較した客観的データの発信を行っていた。
香港での抗議活動の状況は、一部の過激な行動や被害がメディアで取り上げられている状況であるが、筆者の毎月の香港滞在時には遭遇したことはなく、当該エリア、時間に近づくことさえしなければ、仕事や観光に影響はない。メディアでは報道されないこういった日常であるからこそ、政府観光局として発信する必要があると筆者は考えている。次回HKTB関係者と会う際には、プル型かプッシュ形のいずれが有効かディスカッションしたいと考えている。
【危機管理とフォロー】
HKTBは香港内での大規模イベント事業も手がけている。その中で10月に行われる予定だった香港サイクロソン(10月13日)、香港ワイン&ダインフェスティバル(10月31日~11月3日)を中止した。いずれも屋外での消費者向けイベントで、会場と抗議活動が行われるエリアが近く、運営に支障を来す恐れがあるという理由からだ。
対照的に、香港ワイン&ダインフェスティバルが行われる会場と、抗議活動のエリアと同距離にある、香港コンベンション・アンド・エキシビション・センターで行われるイベントについては、多くが予定通り開催されている。屋内ということで、抗議活動による直接的な影響がない、というのが判断基準のようだ。日本の場合には、連鎖的な中止や自粛、リスク回避といった配慮が発生することが予想されるのとは対照的な対応である。中止されたワイン&ダインにおけるフォローにも注目したい。同イベントはレストランや酒造メーカーが出店を設け、一般消費者が入場料を払って飲食を楽しむもので、日本をはじめ海外からの酒造メーカーや飲食店の出店者が多いのも特徴である。その出店者に対して、出展費用を全額返還するとともに、来年開催の同イベントへの出展費用を2割引きするという。
また、来年は、これまでの通り10-11月に開催するとともに、上半期の開催も検討し、年に2回の開催を予定しているという。出店者への次回への優遇措置の提供と、現地に行って体験したいというモチベーションにつながる「イベントの開催」は、有効な誘客策となるだろう。なお、参加費や入場料を事前に支払っている消費者に対しては、全額返金されるとのことだ。
香港サイクロソン
http://www.discoverhongkong.com/jp/see-do/events-festivals/highlight-events/cyclothon.jsp
香港ワイン&ダインフェスティバル
http://www.discoverhongkong.com/jp/see-do/events-festivals/highlight-events/wine-dine-festival.jsp