2018年の訪日者数は3,000万人を超え、初訪日者の割合も2017年の38.6%から2018年は43.2%(速報値)と増えました。日本全体では、初訪日者層の取り込みに成功したといえます。そのような中で、初訪日者の割合が13.9%(2018年速報値)、逆にいえば86.1%がリピーターという「お得意様」が多いのが香港です。そして、2017年の83.6%からリピーター化がますます進んでいます。
①香港人は、日本の観光を最もよく知っている、日本にとっての上顧客である
②香港人は訪日経験が豊富で、訪問先の分散も進んでいるため、彼らのニーズに応えることが、オーバーツーリズムを解消するうえでのヒントになる
③「食」「日常生活」「実益」がキーワード
2018年の訪日者数は3,000万人を超え、初訪日者の割合も2017年の38.6%から2018年は43.2%(速報値)と増えました。日本全体では、初訪日者層の取り込みに成功したといえます。そのような中で、初訪日者の割合が13.9%(2018年速報値)、逆にいえば86.1%がリピーターという「お得意様」が多いのが香港です。そして、2017年の83.6%からリピーター化がますます進んでいます。
本稿では、このリピーターの割合が訪日インバウンドの中でも最も高い香港に焦点を当て、訪日市場が成熟している香港の事例をもとに、京都の課題である「分散化」と「リピーター対策」について考察していきたいと思います。
この1泊1人当たりの消費額について、各国の比較と費目別の内訳を整理した結果は以下の通りです。1滞在当たりの消費額では、オーストラリア、スペイン、イタリアの順で多く、香港は15位と振るいません。これは、上位がいずれも平均宿泊数10泊を超える長期滞在型である一方で、香港は6泊と半分以下であるためです。このように、宿泊数の長さに応じて消費額は変わりますが、観光客の消費力を比較するうえでは、1泊当たり単価を用いることが妥当です。
費目別に見ると、香港はいずれの項目も4位以内とバランス良く消費しており、各業界に満遍なく裨益していることが分かります。そのような中で、前年比の伸びが著しいのが「飲食費」です。2017年の4,499円から、2018年は5,832円とおよそ3割も伸びています。観光庁の消費動向調査でも、「次回の訪日でしたいこと」の設問に対し、香港人の61.1%が「日本食を食べること」を選択していることから、リピーター獲得においては食事環境の整備と情報発信がポイントの一つとなるでしょう。また、第2回の専門家コラムで、堀江氏が「京都の魅力について、リピーターの多い香港、台湾は交通の利便性と食事に関心が高い」と指摘されていることも併せて紹介したいと思います。
京都市内における需要分散を論じるにあたり、今回は日本における訪問先の分散状況を宿泊先都道府県の割合をもとに把握することとします。出典元となる宿泊旅行統計は宿泊施設側でパスポートを確認して集計を行っている一方で、同様に訪問先データとして用いられることが多い訪日外国人消費動向調査は、帰国前の空港におけるアンケート調査による記憶を頼りにした調査であるという違いがあります。ちなみに香港人の場合、訪問率では19.4%で全国4位、延宿泊数では3.6%の全国6位と、訪問に比して宿泊が少なくなっています。
訪問先の分散状況は、各国・地域について、宿泊の多いトップ10の都道府県を抽出し、それ以外の37都道府県での宿泊率を「分散化率」と定義することで把握します。結果は次のとおりです。最も分散化が進んでいるのが台湾で、26.1%がトップ10以外の都道府県で宿泊、2番目が22.0%で香港という結果になりました。
台湾も香港の次に訪日リピーター率の高い市場で、2018年の速報値で83.5%となっています。訪日リピート率が高まるに従い、地方分散が進んでいることから、京都においても分散化の取組とリピーター対策は一体のものとして取り組むのが効率的でしょう。京都観光総合調査(2017年)によると、京都へのリピーター率が最も高いのは香港(5回目以上3.6%)、次いで台湾(同3.4%)という結果にも注目です。
なお、表から読み解ける注目点として、アジア圏と欧米圏の京都での宿泊について、顕著な違いが出ているということにも触れておきます。京都での宿泊について、アジア圏では4位を最高に5位から9位に位置しているのに対し、欧米圏では2位もしくは3位といずれの国でも3位以内に位置していることから、京都は欧米圏に支持される宿泊先であるといえます。
国・地域 | 分散化率(宿泊先都道府県 下位37地域が占める割合) |
宿泊先ランキングにおける 京都府の順位 |
台湾 | 26.1% | 5位 |
香港 | 22.0% | 6位 |
全体 | 19.7% | 4位 |
ドイツ | 16.2% | 2位 |
その他 | 15.6% | 3位 |
タイ | 14.9% | 7位 |
フランス | 14.6% | 2位 |
韓国 | 14.5% | 7位 |
中国 | 13.5% | 6位 |
カナダ | 13.3% | 3位 |
シンガポール | 12.6% | 4位 |
イギリス | 12.4% | 2位 |
アメリカ | 11.6% | 2位 |
ロシア | 11.6% | 3位 |
マレーシア | 11.4% | 4位 |
インド | 11.2% | 4位 |
ベトナム | 11.1% | 9位 |
オーストラリア | 10.1% | 2位 |
インドネシア | 9.4% | 4位 |
イタリア | 9.4% | 2位 |
フィリピン | 7.9% | 7位 |
スペイン | 7.5% | 2位 |
各国別 宿泊先都道府県上位10カ所と地方分散化率(2017年)
ここまで見てきたように、香港からのインバウンドは、消費額、リピーター率ともに高く、また、分散化についても最も親和性の高い市場と位置づけることが出来ます。このような上得意で目の肥えた香港の消費者が、京都の何に関心があるのか、香港メディアでの露出を元に紹介していきたいと思います。
『夏の京都』Weekend Weekly誌 2016年7月11日発売号
分散化の一つの課題として、春、秋以外の時期での誘客がありますが、本特集は『夏の京都』とズバリそのものでした。発行は2016年と、媒体側も早くから春・秋以外に焦点を当て、訪日リピーターの多い読者層のニーズを先取りしたものとなっています。本号では、表紙の他に23ページにわたり、京都市内の夏にちなんだ観光資源を紹介しています。かき氷や夏限定のスイーツ、クラフトビール店、そして浴衣の2016年新デザインについては4ページを割いており、「人と違った」「夏らしい」といったキーワードが並んでいます。その他、「青もみじ」についても、2016年の京都の最新話題として紹介しています。
主な紹介箇所は、貴船・鴨川の川床、貴船神社の青もみじ、東山のかき氷店、烏丸御池のクラフトビール店、北大路のアイス店でした。
『森美旅行団 シーズン2』香港地上波TVB 2018年8月13日から全10話放送
2018年の香港版エミー賞(アカデミー賞のTV業界版)において、京都を特集した『森美旅行団シーズン2』が、非ドラマ部門での最優秀賞を受賞しました。
番組は、知日家として知られる香港の有名マルチタレント、サミー・リョン(森美、Sammy Leung)が案内する旅行番組で、シーズン1では東京と宮城、受賞したシーズン2では、京都をメインに、和歌山、岡山でも撮影が行われました。京都では2018年5月末から撮影が行われ、視聴者が京都を訪れたことがある前提で、2回目、3回目の京都訪問におすすめな箇所が多く紹介されました。
香港では「食」への関心が高いことから、番組でも飲食店の紹介が多く、一乗寺でのラーメン食べ歩き、銭湯を改装したカフェ、西大路御池のカフェ、西院のリーズナブルな牛肉のお店といった内容です。食べたいもののためであれば、少し不便であったり、中心地で無いエリアでも足を伸ばしたりする香港人の特性が捉えられており、分散化を進めるうえで「食」というテーマはヒントになりそうです。また、手軽な体験に対するニーズと、食への関心という点で梅酒造りも大きく紹介されており、撮影が5月であったにも関わらず、4月オープンのお店が取材先として選ばれるなど、制作側のアンテナの高さも注目に値します。
社寺については、安井金比羅宮(縁切り神社として有名)、河合神社(美麗祈願のための鏡絵馬が有名)が登場し、「縁切り」や「美人」といったご利益について紹介されていることから、歴史や建築よりも「実益」を重視したコンテンツが、アジア圏に対する訴求力が高いと言えます。
オンラインで見られる番組宣伝の動画で、再生回数が最も多かったのは、銭湯での電気風呂入浴のエピソードでした。インバウンドに関わった私のこれまでの15年間の中でも、全く初めての取材内容で、日本人の日常生活への関心や真新しい体験へのニーズが高いことを実感させられるものでした。
第2回の専門家コラムにおいて、香港、台湾では「伝統文化」への関心が比較的薄く、より日常生活の魅力を評価する傾向がある、と指摘されていることも実態に即したものであることが分かります。
香港の雑誌、TVにおける京都に関する特集で共通しているのは、読者や視聴者が訪日リピーターであり、京都にも訪問経験がある前提で構成されていることです。したがって、メディアで紹介されたお店や観光資源から香港での旅行トレンドを把握し、京都市内の他エリアで同様のコンセプトの資源を掘り出していくことが、分散化の第一歩となるでしょう。
その上で、市場に応じて有効なメディアを選択し、現地に向けて繰り返し発信していくことが肝要です。この点では、さきほど事例として紹介したいずれの取材でも京都市観光協会が関わっており、取材先の提案や調整に当たり観光地側がメディアとの関係を深めることが出来たのも意義深いです。
さらには、「京都」という圧倒的なブランドを活かし、リピーターをくすぐるまだ知られていない京都の魅力のブランド化を中長期的に取り組んで行く必要があります。その際、特にアジア圏に対しては「食」「日常生活」「実益」がキーワードになってくると考えられます。
海外のメディアや旅行関係の友人から、個人的なおすすめのお店や場所を教えて欲しい、というリクエストが良くあります。様々な統計をみても「現地の人のおすすめ」という項目は無いので定量的な証明は出来ませんが、リピート率が高く日常生活への関心が高い国や地域ほど、そういった地元の人間がおすすめするものに価値を見いだすのではないでしょうか。例えば、京都市と京都市観光協会が昨年から共同で展開している分散化事業「とっておきの京都プロジェクト」の多言語版もニーズがあるかもしれません。インバウンド受入の際には、各市場のニーズを踏まえ、それぞれが誇るおすすめを伝えていくことで、満足度の向上やリピーター化、そして分散化に貢献できるのではないかと考えています。
集計データはこちらからダウンロードしてください。データを利用する際には、必ず出典と引用元URLの明記をお願いします。
プロフィール
京都市観光協会アドバイザー Japan Tourism Research & Consultancy Limited
14年間の日本政府観光局(JNTO)勤務を経て、インバウンドに関する戦略コンサルタントとして独立
シンガポール、香港での計9年間の駐在を通じ、マーケットインの視点での誘客、データに基づく分析力を磨く
Japan Tourism Research & Consultancy Limited社 代表取締役、(社)日本フォトウェディング協会顧問
本コラムに関するお問い合わせ
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企画推進部 DMO企画主幹 堀江卓矢