訪日市場を牽引する京都のインバウンド動向 ~京都のライバルはどこ?~

UPDATE :
2019. 10. 24

SUMMARY

中国をはじめとしたアジアからの訪日市場が急成長するなかにあって、京都は欧米系の観光客や初訪日客が比較的多いため、世界中の観光客から選ばれている旅行先と言えます。とくに2018年はイタリアやドイツからの観光客数が大きく伸びました。これら、初訪日客が多い市場のニーズをとらえ、京都がこれからも訪日市場を牽引していくためには、欧米からアジア方面への旅行で人気があるタイや中国との差別化が重要です。

この記事は、2019年7月25日に広報発表した「京都観光総合調査等を活用した京都観光の最新動向詳細分析結果について」に関する内容を、4回に分けて解説する連載記事です。

第1稿:データから見る京都観光の現状と満足度の実態
第2稿:日本人リピーターの実態分析 ~京都ファンは混雑を避けてスマートに観光~
第3稿:訪日市場を牽引する京都のインバウンド動向 ~京都のライバルはどこ?~
第4稿:訪日リピーターによる地方周遊化への対応

京都は欧米系を中心とした初訪日客に選ばれている

京都から最も近い国際空港といえば関西空港です。平成30年(2018年)の国際線利用者数は2,233万人であり、成田空港の3,343万人に次いで国内空港では2位となっています。首都圏にある成田空港や羽田空港から京都までは約3時間を要しますが、関西空港からは約1時間半の距離です。

そこで、外国人入洛客が日本へ出入国する際に利用している空港について集計した結果を見てみると、関西空港が50%余り、成田・羽田が40%余り、残りがその他空港ということになりました。つまり、京都は関西空港から近い位置にある観光地であるにも関わらず、首都圏方面からの出入りが多くなっていることが分かります。

これは、日本へ入国するための航空経路が成田・羽田空港に限られている欧米を中心とした遠方からの観光客が、いわゆるゴールデンルート上にある京都を訪問先として選んでいることが要因であると考えられます。京都に宿泊している観光客の国籍構成比を、関西空港利用者や訪日客全体の構成比と比較してみても、京都のほうが欧米系の観光客の占める割合が大きいことは明らかです。

このように京都では、一部の地域や1つのゲートウェイに頼らず、様々な方面から観光客を受け入れることができているため、災害や政情不安の影響を軽減することができます。実際、昨年の災害によって関西空港が一時的に閉鎖されたときも、京都での観光客数減少は大阪と比べて小幅に抑えられ、観光市場の強靭性の高さが証明されました。(詳しくは、平成30年(2018年)9月の外国人客宿泊状況調査をご確認ください)

基本的には入国した空港と同じ空港から出国する場合が多いものの、成田・羽田から入国して関西空港から出国、あるいはその逆といった経路が、回答者全体の18%を占めていることにも注目です。関西空港における国際路線が増加したことに伴い(北米方面の路線は2015年冬ダイヤから2018年冬ダイヤにかけて倍増)、訪日外国人にとって航空経路選択肢の幅が広がっていることから、今後この18%という割合が増えていく可能性があります。とくに、日本だけでなくアジア諸都市を歴訪するような観光客にとっては、アジア方面の路線が充実した関西空港と、欧米方面への直行便が多い成田・羽田空港と組み合わせた利用が便利になるため、アジアの諸観光地も含めた周遊ルートの多様化が進むと考えられることにも触れておきたいと思います。

以上の結果から、京都にとっては首都圏方面からの観光客が重要であることが改めて確認されました。とくに、いわゆるゴールデンルート上に位置する京都を目指して来られる初訪日客が増えている欧州は、観光客の絶対数こそアジア諸国と比べて少ないとはいえ、京都観光を持続可能なものにするうえで大事な市場です。

日本全体においては初訪日客が占める割合は40.6%ですが、京都を訪れる観光客では58.9%が初訪日客となっており、京都が初訪日客に選ばれていることがわかります。また、欧州からの観光客の初訪日比率は70%を超えていることからも、欧州が京都観光にとって重要な市場であるといえます。

入洛頻度を考慮した消費額の年間期待値について

ちなみに、平成30年(2018年)はイタリアおよびドイツにおいて京都の宿泊客延べ人数が大きく成長しており、重要な市場である欧州からの誘客に一定の成果が見られています。こうした状況を踏まえて、京都市観光協会では今年度から海外情報拠点をイタリア、スペイン、米国西海岸に新設し、全世界14都市へと拡充しております。今後成長が見込まれる南欧市場への情報発信・情報収集の強化を目指しています。

タイや中国の観光地との差別化が重要

これらの欧米からの観光客に選ばれる旅行先となるためには、欧米諸国のアウトバウンド(外国旅行)先を把握し、日本や京都の立ち位置を明らかにする必要があります。国連世界観光機関(UNWTO)がとりまとめたデータによると、欧米諸国からアジア方面で人気の旅行先はタイおよび中国となっています。日本はこの2国に次ぐ位置づけとなっています。

また、欧米からの入洛客は、京都を訪れるにあたって比較検討した旅行先としてアジア諸都市を挙げている人が多く、このデータからもアジアの観光地と競合関係にあることが確認することができます。

では、どのように差別化していけば良いかということが気になるかと思います。たとえば、以前投稿した記事「国によってこんなに違う!国別の京都のイメージから考えるインバウンド戦略」における調査結果がヒントにはなりますが、ブランディング調査としては十分とは言えません。そこで今年度、京都市観光協会では本格的なブランディング調査を行い、京都観光総合調査だけでは把握できない市場ニーズの分析を行う予定です。この結果がまとまり次第、これからの差別化戦略について具体的にお知らせして参りたいと思います。

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PROFILE

プロフィール

堀江 卓矢 ほりえ たくや

京都市観光協会 マーケティング課 DMO企画・マーケティング専門官

1988年 京都市左京区出身。
京都大学大学院 農学研究科 修士課程修了。
2012年(株)三菱総合研究所 入社。
LCC(格安航空会社)就航に伴う経済効果分析、
東京都における観光戦略策定およびグローバルマーケティング調査、
鉄道各社のコンサルティング業務など、
観光分野を始めとした政策評価や調査業務に従事。
2016年7月から現職。

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マーケティング課 堀江

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