“英国の最新メディア事情と富裕層旅行トレンド”とは?をテーマに「第9回京都インバウンドカフェ」を開催しました(2024年2月7日(水))

UPDATE :
2024. 08. 30

SUMMARY

京都市のPRを長年担当されているSharon氏、ライターのKate氏からは、メディアは話題性がありイノベーティブで独占的な情報を望んでいることや、最近の旅行のトレンドとして、リラックス、健康、サステナブルな観光等が注目されていること等をご紹介いただきました。事業者側としては正確で詳しい情報を発信すること、これまでとは違った角度から深く学べる本物の体験、そしてそれらを表現する質の高い画像を用意することの重要性等が指摘されました。

日時:2024年2月7日(水)13:00~15:00
会場:旧三井家下鴨別邸
プログラム:
(1)イントロダクション
(2)対談
● Sharon Coleshill氏(Spotl1ght Communications Senior Account Manager/京都市ロンドン情報拠点担当)
● Kate Crockett氏(Freelance Travel Writer & Editor, Specializing in Japan)
● 櫻井麻衣子(京都市観光協会企画推進課プロモーション担当係長)

対談

Sharon Coleshill氏

  • 弊社はイギリスにある代理店で、ラグジュアリートラベルのPRを得意としている。中心的なチームには6人が所属し、3人のコンサルタントと協力して業務を行っている。ホテル、ヴィラ、リバークルーズ、スポーツツーリズムなど、多くの施設のラグジュアリー向けキャンペーンを実施してきた。私は14年間PR業務に携わっているが、専門はラグジュアリー関連のBtoB、BtoC向け誘致事業。ラグジュアリー向けの業務を行う前は、ホテル関連のPRも担当していた。
  • 「ILTM( Luxury Travel Market)」とは16年以上の付き合いがあり、メディア向けプログラムのアテンドなども行っている。この商談会はメディアにとっては、来年に向けたラグジュアリー商品に関する情報を得る機会となっている。クライアントがどの市場に進出したいのかに応じて、出展エリアの決定などを行っている。

Kate Crockett氏

  • 私は新聞社、雑誌社で長年働いた後、現在はフリーのライター兼編集者をしている。フリーランスのジャーナリストはどのように働いているのかと聞かれたとき、私はよく「外に出て、たくさんの人と話し、アイデアを見つけ、編集者へ売り込めるストーリーを見つけて提案すること」だと説明している。その”ストーリー”をみつけるリサーチのための旅行も行っている。新しいアイデアを見つけるために電話取材をしたり、現場に行き、正確に編集者に伝えられるように情報収集を行っている。アイデアが生まれてから、出版にたどり着くまで、かなり長い時間がかかる場合がある。そのため、3〜5カ月周期で、長期的に1つの記事に取り組んでいる。
  • 私は日本をよく旅行しているが、最近特に興味深かったのは、丹後でアーティストに会ったことである。もちろん、伊根という興味深い場所も人々を引き付けるが、アーティストたちの並外れた仕事について知れたことは印象的だった。伊根はとても美しい場所だが、非常に狭い場所でもある。従って、全ての旅行者を伊根へ案内したり、日帰りでは行けない場所をあえて案内することは推奨すべきではないと考えている。
  • その他に印象的だったのは、東京の銭湯である。最近は重要な建物が売却されたり、開発業者の手に渡ったりしていると聞いた。企業が生き残っていくのには必要なことかもしれないが、革新のために文化が変化していくことは今後の課題なのではないかと感じた。
  • 雑誌への掲載の近道は美しい写真を用意することである。美しい写真からは、多くの情報を得ることができるため、テキストはそれほど必要ない。写真が素晴らしければ見開きで紹介することも可能となり、色々な媒体に採用されれば読者の心に残り、旅行を検討してもらえる可能性が高まる。私は常に記事の内容を考えるときに、誰がどのように体験できるのか、予約はちゃんとできるのかを意識している。
  • 編集者たちはこの時期、いつも桜に関係するコンテンツについて相談してくる。私も最新の状況を調べたが、旅行会社の方々は、参加者ができる限り最高の経験ができるよう尽力していた。できるだけ混雑を避けられるルートやエリアが人気のテーマとして注目されている。また、混雑する時間より少し早めの時間に体験できるよう手配することで、混雑を避ける工夫などをして調整しようとしていた。私たちは、編集者やライターが何を取りあげたいのかは理解しているが、適切なメッセージを確実に伝えるよう努めている。

参加者

  • お客さまにベストな体験をしてもらうために、混雑を避けて楽しめるところを紹介しているという話があった。言語化された需要と、まだ言語化されていない需要もあるように感じているが、後者をどのように伝えてプロモーションされているのかを知りたい。例えば、実際に富裕層のお客様のリクエストを聞いている中で「ここに行きたい」という声はあるが、本当に求めているものは違うこともある。自分が求めているものが何なのかを理解していない方もいらっしゃるように思う。

Sharon:

  • 人々が持っている日本や京都のイメージとは何かについては、私たちも常に話し合っている。初めての方は、雑誌や映画で見たことのある人気のあるアトラクションなどを全て見たい・体験したいと思っている。それらの「事前に見る情報」は旅行者を「教育する」という観点でも捉えられるかと思う。
  • 京都だけでなく、東京や九州などさまざまな提案をしているが、意識しているのは、時間をかけてさまざまな場所を見てもらえるように「もっと長く滞在するように伝えていくこと」である。

Kate:

  • 初めて日本に来る方は「必ずここに行く」というリストを持っている。だから桜や金閣寺などの写真をメディアで公開するのをやめるというのも一つの手なのではないかと思う。それらのイメージが強くて絶対行きたいという刷り込みが強くなってしまう。
  • 旅行代理店で「桜を見たい」といわれれば開花のタイミングを提案するが、開花終盤のタイミングや混雑しない他の地域を提案したりすることもできるはず。インスタグラム用に写真を撮るだけならどこでも良いし、”桜のある京都を満喫する” ためだけに、混雑する観光スポットに行く必要はない。これらのことは、編集者、そして旅行代理店の教育としても必要なことだと思う。
  • 多くの人に「何日京都に滞在すべきか?」と聞かれるが、まずは「京都について知ってほしい」と返事をしている。その上で、もう一度「何日京都に滞在したいか?」と彼らに質問してみれば「1年では足りない」という返事が返ってくるはず。3日間滞在する場合の提案もできるが、できることは限られてくる。もう1日あればもっと色々な経験を提案できると思う。

富裕層が求めているのは本物の体験、より深い体験、一般とは異なるアプローチ

参加者

  • 旅行者は京都に何を求めて来ているのか、観光の京都なのか、文化の京都なのか、それに合わせてコンテンツを作りたいと思っている。オーバーツーリズムになっているので、本当に必要なコンテンツとは何かを考え直さなければならない。

Sharon:

  • まずは、京都が具体的にどうしていきたいかが重要になってくる。富裕層の方々が見たいものの多くは人里離れたところにある。ユニークなもの、かつ完全にパーソナライズされたものを望んでいる。彼らの要望は必ずしも贅沢なものばかりではなく、通訳付きで地元の方々とふれあいたい、という類のものもあるかもしれない。町家で一晩泊まってみて、気に入らなければもう一泊は新しくオープンしたラグジュアリーホテルに滞在するパターンもあるだろう。彼らはそれを払えるだけのお金を持っている。
  • 一般の旅行者も京都に来るためにお金を貯めてくる。来日までにしっかりと自分たちで旅行を計画し、リサーチし、その際に見てきたものに影響されて来る。最近ではAIやChatbotがリサーチにおいて人気になっていると聞いているが、それらは「本当に求めているもの」とは全く異なるものだと思っている。一般の旅行者は混雑を気にしないし、いろいろな場所を見に行きたいと思っている。それが健康にも良いと思っている。一方で1%ほどの富裕層であれば、他の人とは異なる方法でそこに行きたいと思うだろう。

Kate:

  • 「他の人とは異なる方法」を実現することは難しいことだと思うが、例えば侍の衣装を着る体験であれば、大衆向けに売り込む場合、侍の格好に着替えてInstagramにアップできれば良いかもしれないが、富裕層であれば、着物を着ることが目的ではなく、その着物の作り手に会い行きたいとなるかもしれない。
  • 私が執筆している特定の出版物では、富裕層が求めているものから更に深いものを追求している。一方、新聞の記事ネタであれば大衆向けの情報を探して提案していく。京都側ができることといえば、それらの本物の情報を伝えることだと思う。私は知らないけれど、京都の人であれば知っていること、例えば、着物を作っている様子や着付けをしている様子など、「本物の写真」を共有してほしい。

Sharon:

  • ツアーを購入してもらうということは、人々に適切な付加価値の体験を提供すること。特にラグジュアリー市場では、本物の体験をしたいと思っている人が多く、例えば建築家や庭師に会いに行って、深い会話をしたいと考えている方が多くいる。

Kate:

  • 信頼できる消費者と旅行代理店との関係性が構築できれば、旅行代理店の方々は旅行者をより良い方向に導くことができるし、京都にとっても良い方向に導くことができると思う。

メディアが望むのはイノベーティブで独占的な情報

 Sharon:

  • 当社は英国に焦点を当てているが、実際にはさまざまな国の出版社に各地域の旅行・レジャー情報を提供している。英国のメディアは全国紙、消費者メディア、地方紙、業界紙、雑誌などがある。各紙媒体はWebサイトも持っていて、デジタルコンテンツを提供している。

Kate:

  • イギリスの全国紙では、何が新しいか、何が起こっているかというよりも、話題になっているもの、イノベーティブなものが高く評価される。また、独占的な情報かどうかがジャーナリストや編集者にとって価値となる。

Sharon:

  • Kateのようなジャーナリストのために、プレス向けのツアーも多数企画している。また、当社が行っていることとしては、常にニュースや季節のコンテンツを探して編集者やライターに発信をするということである。メディアの中には、家やライフスタイルなどに興味の高い方に読まれているものもあるが、そういった読者層に旅行についてのインスピレーションを与えるべく働きかけることもある。
  • 地方新聞はターゲットを絞ってリーチさせたいときに有効である。例えそれが富裕層向けの出版物でないとしても、その地域に住む人たちの多くが見ている媒体に掲載されるのはとても価値があると思う。『Family Traveler』は積極的に一緒に仕事をしたいと思っている媒体の一つである。なぜなら、この種の出版物は文化的な目線や地球規模の話題などに興味を持っている人に読まれており、京都が真剣に考えていることについて伝えられるからである。メディアとの関係性を構築することは、当社が活動していく上ではとても重要なこと。私たちはそれぞれのジャーナリストが何を好むのかを見つけ出し、彼らが面白いと思うものを提供することに時間の多くを費やしている。

リラックス、健康、サステナブルな観光が最近のトレンド

 Sharon:

  • ヒルトンが発表したレポート(https://stories.hilton.com/2024trends-sleep)にあった、年代にかかわらず、2024年の旅行動機の1位が「休息と充電」であることにも注目している。人々は心の底からリラックスしたいと思っていて、自分の健康を真剣に考える人が多い。ヒルトンが様々な枕を用意している取り組み等は、旅行者が本当に求めている内容だと感じた。

Kate:

  • 忙しい毎日から離れてさまざまな瞑想を行うものであったり、山の茂みと静けさを感じながら瞑想も伴うハイキングなども提案していた。それに加えて、サステナブル関連の観光やオーバーツーリズムに加担しない観光、観光地として注目されていないローカルな場所や穴場スポットへのアンダーツーリズムなどが話題となっている。健康に関することでいうと、日本では一人ひとりの空間がしっかり確保される環境が整っていると感じている。健康に関する話題はもっと取り扱っていきたいと考えている。

Sharon:

  • 人々は旅行先で少しでも本物を学び、本物に触れ合うことができればと考えている。私たちは、他のブランドやPR会社が目的地をどのように紹介しているかを常に観察している。その中で良いなと思ったのは、贅沢ではないかもしれないが、地元の女性から伝統的な料理を1対1で教えてもらうという特別な体験だった。こうした経験を売り込んでいくためにもKateなどのジャーナリストに紹介していくことが大切だが、まずは彼女たちにもこの内容を体験してもらいたいと感じている。

Kate:

  • ホテルは星の数などの評価だけでなく、その空間に何があるのかを考えてみてほしい。シリーズもののドラマで、ホテルに焦点を当てたものがあるが、信じられないほど人気があるドラマで、熱狂的なファンも多い。取り上げられる場所がどこであれ、紹介されたホテルは高い注目を浴びる。それによって、旅の候補の一つとして取り上げられたホテルを考えることもある。このような例もあるので、どのようなドラマやドキュメンタリーが公開され、それらが旅行に結びつくのかなども常に注目している。
  • 人気があるものを、どう違う側面から紹介できるのかということも考えている。例えばファッションについて人気が集まっているなら、例えば染色技術や衣服ができあがるプロセスなどに焦点を当てて紹介できるかもしれない。トレンドに結びつけて考えることも良いが、自分の本能に従って提案の内容を考えてもいいと思う。あなたを魅了したり、感動させたものなら、きっと同じように感動を感じる方がいるのではないだろうか。

エバーグリーンコンテンツを意識し、ユーザーの立場に立った、より信頼性のある情報発信を

参加者

  • 基本的な質問だが、どのようにして情報を入手するのか?

Sharon:

  • 11月にメディアからリリースされる情報をもとに、トレンドを見つけている。なかには1月、2月に発信されるものもあり、それらからその年に注目すべきトピックスを見つけている。旅行編集者の多くは頻繁に旅行しており、すでにトレンドになるものを体験しているので、来年の記事ではそれをトレンドに設定しようとする。少なくとも毎年『American Express Travel Trends』をチェックしており、「ILTM」にとっては素晴らしい情報源となっている。
  • 京都は多くのホテルがあるが、今は、今年後半にオープンするホテルと協力して企画を考えている。昨年末、注目すべきホテルを厳選し、取材に行ったが、それはひとつのホテルに焦点を当てて取材するわけではなかった。『HWS Traveler』のような出版物には、毎年、ホットリストやゴールドリストがある。ジャーナリストや私のような人々は、それらのリストを作成するために訪れるべき場所も念頭に置いて、今回のような取材をしている。かなり長い時間がかかるものだが、これらの取り組みは、当社が長年行ってきたことの一つである。

参加者

  • 私はフランス出身で、今は東京に住んでいる。確かにオーバーツーリズム対策などにも関心はあるが、課題ばかりを話題にしすぎると、旅行者が知っておくべき何かが欠けてしまうように感じている。

Sharon:

  • 情報は、できるだけ詳細を共有することが非常に重要になってくる。ライターや編集者は忙しいので、私にわざわざ「これには翻訳がありますか?」とは連絡してこない。ウェブサイトが日本語しかない事業者さんの場合、通訳の有無等の情報は提供できているだろうか。共有する情報はできるだけ詳細なものにし、常に変わらず使える情報にしておく必要がある。私たちはそれらを“エバーグリーンコンテンツ”と呼んでいる。ハードカバーの印刷物は長期間使用されるものなので、特に長期間活用できる“エバーグリーンコンテンツ”でなければならない。2カ月しか持続性のない情報は、国内市場には最適かもしれないが、海外の旅行者には届かないし、活用していただけないかもしれない。ただ、ネットの記事に掲載できれば活用されることもある。

Kate:

  • それらの記事を見た人から、皆さんへ、そして他のユーザーに情報が伝えられることを意識し、この情報から何が得られるのか、この体験には何があり、何がないのかなどを確実に理解できるようにしてなければいけない。

参加者

  • この問題は住民にも関わってくる。特にオーバーツーリズムについては、メディアが大きな役割を果たせるのではないかと信じている。主要都市から地方に向かうには30〜45分ほど車でかかる場所が多いと言われている。そこへ向かう車中でも、美しい桜などを見たり、様々な経験ができると感じている。とはいえ、田舎のアクセスを改善していくことも今後の課題だと感じている。

Kate:

  • ユーザーや旅行者の立場に立った時に、より信頼性のある情報発信が必要。なぜなら、依然として人々は、日本の主要都市以外には観光スポットがあまりないのではないかと思っているから。英語は通じるのだろうか、レンタカーを借りられるのだろうか、英語のGPSはついているのかなど、様々なことを心配している。提案することは良いことだが、それらをきちんと楽しめるように発信をしていきたい。京都には本当に素晴らしいものがたくさんある。皆さんの会社の特別な製品や体験があれば、ぜひ私に教えてほしい。

開催後、参加者の皆様からは、

「国内外での富裕層向け広報の勉強になりました。」
「テーマと、テーマに対するゲスト、会場に至るまで選定がマッチしていた。」
「有意義なお話を伺う機会をいただきまして、ありがとうございました。情報発信について大きな学びがあり感謝申し上げます。」

といった感想をいただきました。
引き続き「京都インバウンドカフェ」にご注目ください。

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