2023年度「インバウンドイノベーション京都」の成果を報告する「第10回京都インバウンドカフェ」を開催しました(2024年6月3日(月))

UPDATE :
2024. 07. 26

SUMMARY

2023年度「インバウンドイノベーション京都」に採択された6社から、マーケットインの視点に基づくコンテンツ企画や、他の事業者とのマッチング、海外情報拠点やホテル・OTA等の目利きによる検証、商品特性に応じた販売先の紹介等、それぞれの課題に応じた伴走支援メニューを活用しながら取り組みを進めておられる状況をご共有いただきました。その後の交流会では、発表者、参加者の皆様がお互いの事業などについて熱心に質問し合い、横の繋がりが生まれる場となりました。

第10回京都インバウンドカフェ「2023年度「インバウンドイノベーション京都」の成果報告と交流会」

日時:2024年6月3日(月)16:00-18:00
会場:QUESTION

(1)イントロダクション

(2)2023年度「インバウンドイノベーション京都」の採択事業者の取り組み報告

  • まいまい京都 様
  • 株式会社長楽館 様
  • BNRファーム 様
  • 株式会社曽根造園 様
  • 合同会社achicochi 様
  • 株式会社バカン 様

(3)交流会

報告1/まいまい京都 様

チーフプロデューサー 宮田 絵美 氏

  • 「まいまい」は、京言葉で「うろうろする」という意味を持つ。600人以上のガイドが在籍し、4,000円程度で参加できる多彩なツアーを2011年から開催している。知的好奇心の高い方々に、その場所や物事にゆかりのあるプロフェッショナルが、その人ならではの世界観で好きなことを熱心にガイドすることが特徴である。「ひと型」「もの型」「こと型」と題し、それぞれの魅力を発信できるようなツアーを企画している。中でも「この人に会いに行く」ということを大切にして企画している。
  • 大切にしている価値をそのままインバウンドに提供したいと考えており、「数寄屋造りの究極の茶室、邸宅訪問&茶の湯体験」や「仁和寺の奥山に佇む料亭当主がもてなす錦秋のゆば尽くし会」、「京都最古の商家「千切り屋一門」邸宅へ!巨大京町家を特別に拝見」などを挙げ、インバウンド向けの展開ができるかどうかを検討している。
  • 2月にファムトリップの機会をいただき、イギリスの海外情報拠点のご担当の方、ライターの2名を対象に、「京都最古の商家「千切り屋一門」邸宅へ!巨大京町家を特別に拝見」を実施した。インバウンド向けに内容や説明資料も再構成し、通訳は京都市ビジターズホストの通訳ガイドさんに協力していただいた。商家の個人邸に招かれる点に大きな価値を感じられたようで、国内客とインバウンドでは求めることが違うということも感じた。
  • 通訳ガイドさんからもフィードバックをいただき、インバウンド向けに実施できそうだと感じたが、歴史や文化への基本的知識が異なるインバウンド向けには内容の再構成が必要であり、事務局の体制も十分ではない中ですぐに事業化することの難しさも感じている。情報収集やネットワーク構築を継続しつつ、今後どのように進めていくかを検討していきたいと考えている。

報告2/株式会社長楽館 様

宴会婚礼営業支配人 奈佐 祥正 氏

  • 長楽館は1909年に、当時「煙草王」と呼ばれた村井吉兵衛氏が建てた別邸。大正天皇の即位の際に、迎賓館として現在の形に生まれ変わった。エントランスのロココ調の様式も、昭和61年に京都市有形文化財に指定されてから、ほぼ変わらない形で今に残る。
  • 非公開の和室「御成の間」(京の夏の旅にて9月30日まで特別公開)にて、40〜70代の海外富裕層向けに深く印象に残る体験の提供を検討している。昨年は、祇園東の舞妓さんや芸妓さんによる踊りや投扇興を体験し、最後にカフェで舞妓さんと一緒にお茶を楽しんでいただくサービスを提供した。また、落語家・立川志の春さんに英語版の落語を行っていただいた他、華道家の假屋崎省吾さんによる展覧会の開催、カルティエや百貨店等の展示会を開催した。今後は、着物を着ての撮影会、能や雅楽の鑑賞など、五感で感じられる特別な京都体験を拡充していきたい。また、洋館ということもあり、アジア圏からの来訪が多くなっているが、欧米・アジア圏の富裕層をターゲットに宣伝していきたい。
  • 「インバウンドイノベーション京都」では、コンテンツの企画相談や他の事業者さんとのマッチング、OTAやDMCとのネットワーク化等の機会などをいただいた。採択された事業者の皆さんとの交流等で情報交換をする機会等もあり、少しずつ方向性が見えてきた感じがしている。今週末には京都市海外情報拠点のオーストラリア拠点担当の方にお越しいただき、当館の一番の見どころである建築をご案内した後にカフェを楽しんでいただくファムトリップを予定している。
  • 外部目線で長楽館を見た時、洋館に和室があることは特殊に見えるかもしれないが、明治時代に和洋折衷を取り入れたこの素晴らしい建築や歴史、村井吉兵衛氏の当時の思いをどのような形で伝えていくのか、また、多くの方々にご来館いただき、知っていただくにはどうすればよいのかを常に考えている。この洋館を唯一無二の京都、そして世界の財産として捉え、今後の取り組みをみなさんと共有できれば嬉しい。

報告3/BNRファーム 様

代表 岡田 哲郎 氏、寺島 美羽 氏

  • 2020年、京都市西京区の大原野にて、30代・40代の若いメンバーで新規就農したグループである。大原野で代々農家を営む上田農園、自然農法を実施する塔伊農園の監修の元、野菜が本来持っている甘みや旨みなどを最大限に引き出す栽培方法に力を入れている。ライブ配信を通して様々な角度から農家の日常を伝えている他、作った野菜は大手筋商店街やマルシェ、フェス等のイベント等で販売している。主力として栽培しているナスは全国38都道府県の児童養護施設にも寄付している。
  • 暑い日中を避けて夜に京野菜の収穫体験をするナイトファームを実施している。繁忙期になると、朝の4時〜5時から動き出し、夜11時〜12時頃まで作業を行うこともあるが、ヘッドライトで光った野菜が非常に綺麗だった。これをみなさんにも味わってもらいたいと思い、昨年から開始した。ターゲットは中長期滞在者や、ナイトライフを楽しみたい方、体験型のアクティビティや伝統工芸などに魅力を感じる方である。
  • 畑にはピザ窯も用意しているので、収穫した野菜で作ったピザを召し上がっていただく。畑で収穫した本来の野菜の味を楽しんでほしいと考えている。また、竹藪も管理をしているため、4月には筍堀り体験もできる。間引きのために伐採した竹を活用して竹灯籠やコップ、お皿などを作る体験もできる。
  • 「インバウンドイノベーション京都」では、具体的な体験内容の相談に加え、販路開拓等の相談にのっていただいた。また、2月には京都市ビジターズホストの通訳ガイドさんにご参加いただき、モニターツアーも実施した。現在はOTA経由で販売できるよう準備をしているところである。内容としては手ごたえを感じているが、英語対応や効果的な販売方法についての課題を感じているため、引き続き、色々な業種の方々と連携して取り組んでいきたい。

報告4/株式会社曽根造園 様

代表取締役社長 曽根 文子 氏

  • 我々は、「日本庭園の文化を生かし禅味ある庭づくりの伝統技術を継承し、未来へと繋ぐ」を理念として、天龍寺や東福寺、妙心寺などお寺を中心に造園業を営んでいる。今回、嵐山に「放我庵(HOGAN)」という、自分を解放する禅庭のある空間を立ち上げた。社員の半数が25歳以下という若い集団ということもあり、若手の育成と番頭(ベテランの庭師)が活躍できる場所を創出したいという狙いもある。
  • 「ターゲット」は、日本庭園や禅の庭、マイドフルネスや文化に興味のある方で30〜70代を想定している。
  • 具体的な体験コンテンツとしては、天龍寺や東福寺などを庭師が案内するガイドツアーや、「放我庵」で庭師に教わりながら砂紋引きをする体験である。その他、盆栽鉢に景石や季節の植物などを置いて小さな日本庭園を表現するプログラム(雨天時対応)も用意している。企業研修・ギャラリーなど、時間貸し、場所貸しなどの対応も考えている。まだ工事中ではあるが、1組だけ泊まれる宿泊施設もあり、一晩、この庭を自分だけで楽しんでいただくこともできる。
  • 「インバウンドイノベーション京都」を通して、体験の企画内容についての打ち合わせを重ね、ホテルとのマッチングやOTAやDMCの方々のお話を聞く機会をいただいた。インバウンドに関する様々な情報をいただく中で、コロナ前とは旅行の形がすっかり変わってしまったことに気付かされた。我々は職人集団なので、観光や旅行のことはあまりわからなかったが、色々な方にお会いでき、様々なことを教えていただいたことをありがたく思っている。
  • また、イギリスの海外情報拠点のご担当の方とライターの方に実際に企画案を体験していただくファムトリップを実施し、リアルな反応やアドバイスをいただけたことも良かった。その後、イギリスの旅行会社からの視察があった他、ラグジュアリーホテルで体験を販売したいという声もいただいている。
  • 現在の課題は、運営のための人材確保と、販売方法、更なる質の向上である。「誰に売るか」「どのように売るか」をしっかりと意識し、お越しいただいた方に体験を通して日本文化・日本庭園を広く伝えていきたい。また、何よりも若い社員と番頭と自分が楽しめる場所でありたいと思っている。

報告5/合同会社achicochi 様

代表社員 三木 健吾 氏

  • 弊社は京都市西京区を拠点に、西京区にある京都市登録有形文化財「苔香居(たいこうきょ)」のオーナーと一緒に、海外の人たち向けのアパートメントを提供していた。今回はこれまでの取り組みを拡大させたもので、海外デジタルノマド向けに体験、企画、コンテンツを提供する「Colive Kyoto」をインバウンドイノベーションのサポートを受けながら行った。
  • 今年、デジタルノマドビザの申請受付が始まったが、海外・日本に限らず、定住せずに転々としている外国人が世界では3500万人ぐらいいると言われている。そういう方たち向けに中長期の滞在(住まい、文化体験、人とのつながり)を提供するニーズがあるのではないかと考えてこの取り組みを始めた。
  • デジタルノマドは1週間から観光ビザ最大の3カ月まで、長期滞在をされるのが特徴である。観光体験を充足させるというよりも日本での生活を快適に送れることにフォーカスを当てている。人とのつながりに関しても、一般的な旅行者は現地の人と繋がりたいとはあまり思わないかもしれないが、デジタルノマドは同じようなライフスタイルの人たちと繋がりたいと考えている。
  • 昨年11月3日から10日にかけて、海外デジタルノマド10名と1週間一緒に滞在するプログラムを作った。例えばヨガをしたり、「苔香居」内でコワーキングをしたり、かまどでご飯を炊いてみんなで食べるなどの交流アクティビティを行った。近くの竹林や嵐山に行くオプションも企画したが、参加者は結構多かった。市内を巡ったり、立ち飲みやラーメンを食べに行ったり、日本の日常に触れたいというニーズが多かった。1週間のコンセプトは「1day 1thing」で、詰め込みすぎないプログラムとした。
  • 「インバウンドイノベーション」を通して、他の採択事業者やホテル、OTAやDMC等との交流の中で、リアルなインバウンドのニーズなどの情報を得ながらコンテンツを作れたのは非常に良かった。一方で、事前のすり合わせや調整が必要なお客様も多く、正直なところデジタルノマド向けに提供するよりも観光客向けに提供した方が採算がとれるのではないかと感じたところもある。今後も情報発信の強化や、満足度が高いかまどでのご飯炊き体験の販促等を実施していきたいと考えている。

報告6/株式会社バカン 様

代表取締役社長 河野 剛進 氏

  • 我々の会社のミッションは「いま空いているが1秒でわかる優しい世界をつくる」ということ。人は多くても混雑のない社会をつくることで、人々が優しくなれる社会をめざしている。IoTと人工知能によってリアルタイムで「空き状況」がわかるプラットフォームを運営している。これらは空港やホテル、商業施設などでご利用いただいている。また、自治体と連携して避難所の空き状況の可視化も進めており、これにより、たらい回しを防ぎ、地域全体の安心を作っていく取り組みを進めている。
  • これらの仕組みを活用したオーバーツーリズム対策に向けて、京都市観光MICE推進室や京都市地域企業イノベーション推進室との情報交換等を行った。これまでの他県での事例としては、JR西日本の広島駅のみどりの窓口の混雑状況を可視化することで、待ち時間の短縮と利用者の満足度や利便性の向上を目指したり、秩父市の駐車場周辺情報を可視化する取り組みを行った。また、ホテル内の店舗混雑状況やマップ情報、周辺情報を施設内の電子掲示板に表示するようにする取り組みを様々なホテルで実施している。
  • 「インバウンドイノベーション京都」を通して、自治体の観光担当や商店街担当といった、混雑対策などをされる担当部署とも意見交換をさせていただき、現地での確かな課題を認識することができた。公共交通については、混雑状況やインバウンドに合わせた取り組みを実現するには、システムだけでなく規制と合わせて検討する必要があると感じた。観光やインバウンド対策だけでなく、日常生活に加え、防災対策など非常時にも対応できる仕組みを考えていきたい。

その後、報告者別のグループに分かれ、報告内容に関する質問や他の参加者の取り組み等も紹介しながら意見交換を行う交流会を実施しました。

開催後、参加者の皆様からは、

  • 「講演者の話が具体的で分かり易かった。フリーな質問にも真摯に答えて頂きました。勉強になりました。」
  • 「皆さまのお話をお聞きして業種は異なるものの取り組みの姿勢や求められる本質は同じだということを痛感いたしました。ここ近年だけではなく、10年、20年先を見越した事業に成長させていきたいと思いました。」
  • 「様々な業種の方の取り組みやお考えを聴く機会を得られることはとてもありがたく、自身に何ができて、何が足りないかを考えるきっかけをいつもいただいています。個人事業主であり、スタッフもいないという環境であるので、孤軍奮闘しているかのような思いにとらわれがちなので、他のお話を伺うと共有できる事がありがたいです。」
  • 「知っているけど接点がない京都の事業者とお話しする機会が出来てよかった」

といった感想をいただきました。
引き続き「京都インバウンドカフェ」にご注目ください。

京都インバウンドカフェについて詳しくはこちら

CONTACT

本件に関する問い合わせ先

公益社団法人京都市観光協会 企画推進課 マーケティング担当

075-213-0070

marketing@kyokanko.or.jp

本レポートの関連事業