“売れる”体験コンテンツとは?をテーマに「第8回京都インバウンドカフェ」を開催しました(2024年1月29日(月))

UPDATE :
2024. 04. 23

SUMMARY

販売が軌道にのるまでは時間がかかる一方で、“売れる”ためのポイントとして、地域特性やお客様のニーズを理解すること、予約の〆切をできるだけ催行直前に設定すること、口コミのコメントを蓄積すること、お客様の反応をふまえて変えるべき点は早めに改良すること、地域内や連携先の事業者さんにもコンテンツをしっかりと知っていただくこと等が共有されました。

2024年1月29日(月)、「ひろし・みやこ同盟」を締結しているHIT(広島県観光連盟)との連携企画として、「第8回京都インバウンドカフェ「“売れる”体験コンテンツとは ~広島と京都における事例紹介と交流~」」を開催しました。
両組織では、観光コンテンツ造成支援プロジェクト(HYPP(https://www.hypp.jp/インバウンドイノベーション京都(https://www.kyokanko.or.jp/news/20230828)を実施していますが、これらの経験から得られた「流通」「販売」に関する知見や課題をご紹介するとともに、実際に体験コンテンツを効果的に販売している広島と京都の事業者様をパネラーとしてお招きし、「質の高いコンテンツ」を「ターゲット」に確実に届けるための販売のあり方についてディスカッションを行いました。

開催時間:2024年1月29日(月)16:00~19:00
会場:GOCONC
プログラム:
(1)イントロダクション
(2)パネルディスカッション
・石飛 聡司 氏(株式会社mint 代表取締役)
・三村 理紗 氏(一般社団法人My Japan代表理事)
・宮澤 心 氏(ジャパンフードエンターテイメント株式会社 代表取締役)
・山根 樹 氏(一般社団法人Discover Noh in Kyoto 代表理事)
・ファシリテーター:清水 泰正 氏(インバウンド戦略研究所 代表取締役)
(3)ワールドカフェ
(4)交流会(自由参加)

パネルディスカッション

サイクリングガイドツアー「sokoiko!」(石飛聡司氏)

  • 私は広島市内各所を電動自転車で回りながらストーリーを感じていただくサイクリングガイドツアー「sokoiko!」を実施している。以前はアパレル関係の会社に勤めていたが、Uターンで地元に帰ってきた際に、国内外の観光客の行き先が平和公園や宮島など、いわゆる定番の観光地に集中していたことに疑問を感じていた。地元の人間である自分が知っている綺麗な場所や面白いスポットを自転車でガイドをすれば、観光客の滞在時間が増え、日帰り客が多いという広島の観光課題解消にもつながるのではないかと考え、7年前に広島で事業を立ち上げた。
  • テーマは“ガイドブックに載っていない旅”であるが、初年度の利用客はわずか60人ほどと苦戦していた。そこでツアー中にお客様とのコミュニケーションを深める中で、ただ広島のスポットを紹介するだけではなく、もっと歴史やストーリーを通じて伝えていくことが必要だと痛感した。そういうコンセプトを取り入れたことで2023年には利用客は年間1500人まで増えた。
  • ストーリーについては「Peace Tour」をテーマに、平和公園を中心に約2.5km圏内を設定した。この範囲は原爆で大きな被害を受けたエリアでもあるが、被爆に耐えた建物や木などの「被爆遺産」が数多く点在している。また原爆投下からわずか78年でどうやって今の美しい広島へと復興していったのかについて、エピソードも紹介しながら案内している。エピソードは、史実や地元の人から聞いた話だけではなく、私個人の思いも含めて話していく。それによって共感を呼び、トリップアドバイザーでのレビューが増えてきた。トリップアドバイザーのエクセレンス認証を4年連続でいただき、2021年、2022年は「トラベラーズチョイス ベスト・オブ・ザ・ベスト・アワード」をいただいた。それがきっかけでさらにお客様が増えている。単に観光客とガイドという関係を超え、共に平和を育み、一緒に未来を歩んでいこうというメッセージを届ける機会にもなっていると思っている。

二葉山の山頂で絶景を見ながら朝ごはんを食べるツアー「Asageshiki」(三村理紗氏)

  • 私は熊野筆の産地・広島県安芸郡熊野町の出身である。熊野筆の職人の家に生まれ、家の目の前が工房という環境で、幼い頃から日本文化を身近に感じて育ってきた。そこで文化体験の監修や、伝統産業の担い手支援を目的に立ち上げたのが一般社団法人My Japanである。事業としては9年前から行っており、観光事業を始めたのは3年前からである。
  • 大きな変化は、広島駅の目の前にある二葉山の山頂で絶景を見ながら朝ごはんを食べるツアー「Asageshiki」をスタートさせたことである。二葉山は広島を守っている鬼門の場所にあり、広島の人にとって大切な場所である。山頂からの見晴らしが良く、天気のいい日には宮島まで見える。ここは奥宮という文化財でもある神社所有の土地になるが、神社側の協力を得ることができたため、敷地内でお茶を点てたり、食事をしたりするツアーを実施できている。
  • 従来は全く観光地ではなかった場所だが、駅から歩いて8分という好立地にあり、ホテルと連携できたことも高評価を得た理由である。特に朝の時間を活用したツアーがなかったため喜ばれた。体験してくれたフランスのジャーナリストは「私が知っている広島とは全く別の顔を見ることができた」と言ってくれた。
  • お弁当は地元の食材を使い、季節によってメニューも変えており、ヴィーガン対応のお弁当も用意している。年間400人くらい海外の方が参加してくれており、今では毎日開催している。これまでは広島を訪れる観光客の多くが日帰りで帰ってしまうことが課題だった。そこで朝をメインにしたコンテンツを作れば宿泊と連携できると共に、神社の維持・保存にもつながると考えた。
  • まずは、荒れた山に手を入れるところから始めた。これまで登ることができなかった崖のところに手すりをつけたり、伐採した木で階段を作ったところ、地元の方がすごく喜んでくれた。また木を伐採したことで絶景が現れ、それがこのツアー開始のきっかけにもなった。もともと地域貢献のために始めたことなので、参加費の一部は二葉山の環境保全の取り組みに寄付している。そうした活動を通じて日本の観光に新しい価値を作り出せたらと思っている。

ファイヤーラーメンとラーメンファクトリー(宮澤心氏)

  • 当社の「めん馬鹿」では、九条ネギが大量にのったラーメンに熱したネギ油をかけて火柱がのぼるパフォーマンスと共に楽しんでいただく「ファイヤーラーメン」を提供している。現在の単品価格が2,000円であるが、日本一高いラーメン屋を目指しており、この春には3,000円にしようと思っている。
  • 2017年10月に東福寺の近くでラーメンを自分で作って食べる体験コンテンツ「ラーメンファクトリー」を始めた。当初は一人3,500円で40名くらいの団体を受け入れており、メインターゲットは東南アジアからの観光客に設定していたが、この体験を求めるのは欧米の方が多く、今となれば戦略ミスだったと感じている。そしてコロナ禍で外国人観光客が来なくなり、閉店。ファイヤーラーメンも2年間閉めていた。代わりにベーカリー事業を立ち上げ、現在は4店舗ある。
  • 2022年10月の入国規制緩和を受け、ラーメンファクトリーへの問い合わせが少しずつ増えはじめていた。しかし店はないので、ファイヤーラーメンの店舗で体験を受け入れる形で対応した。価格設定は10,000円にした。2022年の年末になるとファイヤーラーメンも忙しくなり、体験の問い合わせも増えてきたので、2023年3月に新たに河原町今出川にラーメンファクトリーを再オープンした。ターゲットはオーストラリアとアメリカに絞った。これまでは席数の分だけ色々な時間帯にスタートしていたが、1枠10名を1日3回転する形でスタート。単価も16,500円(税込)に値上げした。
  • 去年は販売チャネルの約60%がOTA経由であった。その次が自社ホームページ。あとは代理店が約10%という内訳になっている。今年はスタッフも増やして売り上げも倍増を見込んでいる。
  • 私たちは食の多様性に力を入れている。ムスリム対応はもちろん、ビーガンやべジタリアンにも対応している。ある時、店内には豚肉が禁忌であるマレーシアのムスリムカップルと、豚肉が大好きな中華系のシンガポール人たちが同席していた。本来、彼らはラーメン屋で出会わないはずの人々であるが、ここにきたら同じテーブルを囲める。「ワンテーブル」の精神で、宗教も食習慣も超えて、同じラーメンを同じテーブルで食べられるユートピアならぬ「ラートピア」を目指している。

「能」を切り口にしたディープな京都体験(山根樹氏)

  • 私たちは京都で能楽コンテンツを通じて能楽の魅力を紹介する事業者である。私自身、中学生の頃からの能楽ファンで、25年以上、能楽のお稽古に通い続けている。プロの能楽師ではないが、外と内の立場から、かつ海外の視点から能楽の世界を紹介できることが強みだと思っている。
  • 私たちのメンバーは、私がアメリカ人と日本人のハーフで京都市認定通訳ガイド、それに中国人で通翻訳者、さらにはイタリア人で大学に在籍する能楽研究者がいる。多様なバックグラウンドを持ちつつ、異なる流派に所属しているため、そのため質の高い多様な視点のコンテンツを作れるのが特徴である。
  • 京都は能楽師が100名以上在籍していて、ほぼ毎週のようにどこかで公演が行われている。しかし京都の人でさえも能楽堂がどこにあるかを知らないのが現状である。また、京都の強みは、工芸、食、酒、祭事、神社など、能楽にゆかりの深い文化がたくさんあることである。例えば伏見稲荷大社なども能の舞台になっているほか、西陣織の最高級品は能装束に使われている。自宅に稽古場を持っている能楽師も多いため、その稽古場での体験プログラムの提供も行っている。
  • 今年度はファッションブランドmiu miuの貸切イベントのコーディネートをはじめ、京都市観光協会のサポートでラグジュアリーホテルのロビーでの能楽の公演イベントや体験プログラムの提供をさせていただいた。また、専門ガイドによる解説付きの能楽鑑賞や、能楽師や能面師を訪問する体験ツアー等のコーディネートなども実施している。そして、お茶の世界と能楽の世界を同時に味わえる企画として、西行法師ゆかりのお茶室でお茶を体験してもらい、その後で西行法師が登場する能楽を鑑賞する体験も行うなど、京都の文化全体を横断しながらストーリーテリングをするコンテンツも提供している。
  • 当初は教育普及目的で留学生向けにやってきたが、それだけでは広がらないことを認識しBtoC向けに拡大した。能楽に関わる有形無形の京都の文化資源を活用し、能楽を知ることで京都をより深く知っていただくきっかけにするとともに、VIPなど富裕層を中心としたターゲット向けの特別な体験コンテンツとしての価値をブランディングしていく必要があると考えている。

パネルディスカッションでは、ターゲットの考え方、実際にコンテンツが売れるようになるまでの期間や工夫、現在の課題等についてお話をうかがいました。ある程度軌道にのるまではある程度の時間がかかること、その一方で、お客様のニーズをふまえて変えるべき点は早めに変更・改良すること、地域内の事業者さんにもコンテンツを知っていただくことの重要性等を共有いただきました。

<販売時>

  • 当初ターゲットに据えた市場と、実際にニーズのある市場が違った。
  • 地域の特性(どういった旅行者が来ているか、活用できていない資源や時間帯はないか等)を分析し、現在足りていないコンテンツを企画
  • 予約の〆切をできるだけ催行直前に設定
  • 実際に動かしながら改良していくにしても、コンテンツそのものが面白いかどうかは重要。

<販売後>

  • ターゲットの再設定とともに金額を上げていった。それによって、こちらが提供したいパフォーマンスを期待するお客様に購入いただけるようになった。
  • ローカルな部分だけをコンテンツに組み込んでもお客様に響かなかったため、お客様の声や反応をみながら改良した。大きな問題や課題になる前に注意深く観察し、改良を加えている。
  • 軌道に乗るようになるまでは2~3年かかった。トリップアドバイザー等の口コミの蓄積に伴って、エージェントやお客様からの予約が入るようになった。
  • コロナ禍でガイドの育成をしっかりと行い、販売していただける地元の事業者さんに浸透させていったことで、2022年10月に外国人観光客が戻って来てからすぐに予約が入るようになった。口コミや紹介で参加して下さる方も多いため、県内の事業者さんに知っていただくことも重要。
  • 高価格帯のコンテンツはエージェントが間に入ることが多いので、予約前のお客様の反応が把握しづらい。間に入って下さるホテルやエージェントさんがいかに共感していただけるかが重要。
  • 手数料として出ていく分が大きいため利益率をいかに上げていくかが課題。
  • たくさんの方に参加していただきたい想いもあるが、特別なものというスタンスも崩したくないため、そのあたりのバランスが悩み。

パネルディスカッションの後は、「ワールドカフェ」を実施。各パネラーが座る4つのテーブルを全員が回り、前半のパネルディスカッションの内容をさらに掘り下げた質疑応答や、他の参加者との意見交換が活発におこなわれ、会は終了しました。

参加者の皆様からは

「訪日外国人のリアルな関心ごとに触れることが出来たこと。また事業の改善や、情報発信の試行錯誤の話を聞けてとても参考になりました。」
「0から作り上げて成功するまでに改善の繰り返しは不可欠、また3年近い期間が必要ということがわかった。」
「京都でばかり考えていると視点が狭くなりかねないので他の都市のフレッシュな知見が得られて良かったです。」
「一方的に話を聞くだけではなく双方向に多くの方と話す機会がいただけたことは貴重でした。インバウンドと一口に言っても様々なニーズと嗜好があり、マーケティングときめ細かな対応が必要だと思いました。」

といった感想をいただきました。

「京都インバウンドカフェ」の開催は京都観光MICENewsletterでご案内しています。引き続きご注目ください。

【参考】

sokoiko!  https://www.sokoiko-mint.com/
Asageshiki  https://www.asageshiki.com/
ラーメンファクトリー https://shinmiyazawam.wixsite.com/ramen-factory-kyoto
Discover Noh in Kyoto  https://discovernohinkyoto.jp/

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公益社団法人京都市観光協会 企画推進課 マーケティング担当

075-213-0070

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