中国市場をテーマに「第6回京都インバウンドカフェ」を開催しました(2023年9月1日(金))

UPDATE :
2023. 10. 19

SUMMARY

中国人観光客は、中国にルーツがあり他国の文化に影響を与えたものに関心が高い傾向がある。最近はコト消費に移行しつつあり、また、若い富裕層は「クラフト」「アート」「アウトドア」に注目している。一方で、世代差や地域差、個人差も激しいため、中国人と一括りにせず、自社のコンセプトを明確にし、ターゲットを見据えて戦略に基づいた取り組みを行うことが重要である。また、現地の変化にも注目して動向を読み取る必要がある。

2023年9月1日(金)、これからのインバウンド向けコンテンツのあり方を考える交流イベント「第6回京都インバウンドカフェ」を開催しました。
中国若者富裕層ビジネスコンサルティング代表の劉瀟瀟氏とインバウンド戦略研究所代表取締役の清水泰正氏をお招きし、香港・台湾等の周辺諸国とも比較しながら中国市場の今後の見通しや最新の旅行・消費動向についてお話いただきました。その後、参加者からの質問にお答えいただく形で議論を深めました。

(1)イントロダクション

(2)対談

劉瀟瀟 氏(中国若者富裕層ビジネスコンサルティング代表)
清水泰正 氏(インバウンド戦略研究所代表取締役/京都市観光協会アドバイザー)

(3)質疑応答

(4)交流会

1.劉瀟瀟 氏のお話のポイント

コト消費への移行 これまでの中国にはなかった消費スタイルに注目

  • いま、良いトピックスが二つある。一つは中国人の海外への団体旅行が解禁されたこと。もう一つは出国時のPCR検査が不要になったことである。ただし、近年の中国人観光客の多くは個人客なので、そこまでのインパクトはないのではないかと予想される。
  • 福島第一原子力発電所のいわゆる「処理水」の問題についてであるが、中国人は身体や健康に関する事柄について、すごく過敏で不安に思う国民性がある。一例として中国では野菜や果物を洗う洗剤がとてもよく売れる。ただし、そうした状況でも日本に来たいという人たちは多い。その人たちは日本の情報を信じている人たちであり、本当の日本のファンなので、大事にしたい。
  • 最近は中国人もコト消費に移行しつつある。夫婦二人で来日してマンダリンオリエンタルに1ヶ月滞在した富裕層の例では、夫は富士山の見えるゴルフ場でゴルフ三昧、妻は2週間に1回の美容整形(1回80万円、日本の美容整形は自然な仕上がりだということで人気が高い)をして過ごしていた。また日本在住の友人と一緒に料理教室に行ったり、ヨガを楽しんだりと、これまでの中国にはなかった消費スタイルに注目が集まってきている。

世代、地域によって大きく異なる嗜好性

  • コロナ禍で海外に行けなくなったことで中国国内旅行の需要が高まった結果、中国の観光地のレベルが急激に上がった。また海南島をはじめ中国のリゾート観光地に日本企業も進出した。それゆえこれからの日本は「Made in Japan」というブランド力だけでは振り向いてもらえない。自社の哲学やストーリーをしっかりアピールしていかないと、中国国内の観光資源に負けてしまう可能性がある。
  • Z世代は愛国教育を受けてきたことで、中国文化に誇りを持っている。お茶やお香など中国にルーツがあり、他国の文化にも影響を与えたものに関心が高い。京都にはそうした文化が数多く残っていて、それを体験できることが若い世代にとって魅力になっている。
  • 「クラフト」「アート」「アウトドア」は中国の若い富裕層にとっては重要なキーワードである。特にアウトドアはコロナ禍に外出できなかった影響もあり、中国国内において猛スピードで成長している産業となっている。
  • 「クラフト」は職人の手仕事や手作りなどのことであるが、自分にしかできない体験への関心が高まっている。日本にはたくさんの種類の体験や教室がある。中には、わざわざ日本まで来て短期の絵付け教室に通い、中国に戻ってから副業を始めたり、北京や上海で教室を開く人もいる。
  • アートについては「文藝青年」といって、親世代とは一線を画した、センスがあると自負する人が多い。そうした若い人たちの多くが日本のアートや映画に惹かれている。
  • 「中国人観光客」と一括りにしてはいけない。世代によって大きく違うし、また同じ世代でも異なる傾向が見られる。富裕層も色々な層に分かれていて、世代差と地域差が激しい。上海や北京に住んでいる20代と農村部に住んでいる60代は別の人種のようなものである。
  • 「富一代」と呼ばれる層は50代以上の人たちを指す。旅程をすべて秘書に手配させ、とにかく良いホテルに泊まって高級な食事をしたいといういわゆる「成金」と、自分でビジネスを立ち上げて成功した、教養も異文化理解力も高いタイプがいる。また、その子どもの世代である「富二代」でも同様である。このように人によって違うので、自分の商品やサービスにあった人に狙いを定めて戦略を考える必要がある。

中国に向けた情報発信について

  • 中国人が使っているSNSには、サービスごとにそれぞれ異なる役割がある。Weiboはパブリックな情報が発信されることが多く、特にWeiboのアカウントで発信される情報は正しい情報だと認識される。
  • WeChatは相互に発信しあうツールとして活用されている。例えば、誰にも知られていない京都のギャラリーの情報についてやりとりする等、クローズドな情報発信に向いている。
  • 要注目なのがREDであり、例えば京都で起きた出来事やイベント、流行っている本屋、カフェの情報など、ユーザーが関心のある情報がどんどん出てくる。旅行だけではなくライフスタイル全体をキャッチできるSNSとして重宝されている。
  • ただしSNSはあくまでツールにすぎない。自分たちのビジネスコンセプトや戦略を明確に持ち、訪日中国人にどう認識してもらうかをはっきりさせてからSNSを活用してほしい。「いいね!」や「拡散数」など数字だけを追求するのは無駄である。ターゲットにしたい相手にアプローチできているのかというところに注力していただけたらと思う。

3.清水泰正 氏のお話のポイント

消費単価の中で最も上がっているのが娯楽費、買い物費のみ低下

  • まず2023年1月~7月の外国人旅行者数はコロナ禍前に比べてまだ4%だが、中国を除くと86.3%となっているので、ほぼコロナ前に回復したといって良い状況である。
  • 7月単月で見た場合では、中国を除くとすでにコロナ前と比較して3.4%増という数字が出ており、シンガポールやアメリカ、カナダなどはかなり回復してきている。中国人観光客の回復を待たずともインバウンドは好調と言えるだろう。
  • 一方で中国人観光客が海外にどのくらい訪れたかというと、日本は7月の時点で70.2%減。タイ、マカオ、シンガポールは2月に団体旅行が解禁された国であるが、シンガポールでも57.4%減となっている。つまり団体旅行が解禁されたからといってすぐに戻るわけではないことが各国の状況から見てわかる。
  • 日本滞在中の1人あたりの単価について[i]は、2022年の10月~12月と2023年の4月~6月の最新データを比較すると、アジアは減っていて欧米は増えている。さらに細分化して一泊一人あたりの金額に直すとシンガポール、台湾、香港、イギリスの順に高くなている。
  • 何にお金を使ったか費目別で見ると、買い物代、娯楽等サービス費、交通費、飲食費、宿泊費とあるが、コロナ前よりも単価は軒並み上がっているなかで、唯一下がっているのが買い物代である。コロナ前は「1泊」あたり約9,827円使っていたのが、2023年4~6月は7,472円に下落している。逆にもっとも増えているのが娯楽等サービス費、いわゆる「コト消費」であり、コロナ前は901円だったのに対し、今年の1月~3月は2,051円と倍以上使われている。
  • コト消費の内訳を香港の旅行者でみると、増えているものは現地ツアー・観光ガイドである。金額ベースだとゴルフ場、舞台・音楽鑑賞、美術館・博物館・動植物園・水族館、スキー場、温泉・温浴施設・エステ・リラクゼーションなどが伸びている。減っているのはやはり買い物で、とくに医薬品、化粧品・香水、健康グッズ・トイレタリーなどのドラッグストアで買うようなものの減少が顕著である。逆に増えているのは衣類、靴・鞄・革製品などの高額品である。滞在日数が増えているので総額で見ると買い物は増えているが、一人当たりでみると減っているので注意が必要である。

[i] 出典: 観光庁訪日外国人消費動向調査:https://www.mlit.go.jp/kankocho/siryou/toukei/syouhityousa.html

コロナ禍での現地の変化にも注目

  • 気になるのは生鮮農産物である。香港では肉以外ほとんどの物品が持ち込み可能で、かつては桃やりんごを買ってハンドキャリーで持ち帰る人が多かったが、コロナ後はかなり減っている。要因の一つとして香港にドン・キホーテが20店舗くらいできたことで、香港で買えるものが増えたことが考えられる。このように、現地の変化も見る必要があり、コロナ禍以前の常識が通用しなくなっている。
  • いずれにせよ、中国、台湾、香港と、国・地域ごとにそれぞれ状況は異なる。世代によってもニーズは異なり、あるいは人によって好みも千差万別である。また、京都に初めて来られた方なのか、リピーターなのかによっても違ってくる。リピーターを中心に「ファン」をつくり、彼ら彼女ら自身がSNSに投稿することで中国国内に向けて「広告塔」としての役割を果たしてくれる。そのように仕向けていくのが、これからのインバウンド戦略におけるスマートなやり方ではないだろうか。

引き続き「京都インバウンドカフェ」にご注目ください。

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