- 統計データから日本の水際対策のおさらい ~1日あたりの入国者数と受入上限2万人のキャップ~
- 入国規制緩和後の初訪日ツアーの現状 ~香港の事例を参考に~
- 訪日意欲と訪日時期 ~KLOOKユーザーのアンケート調査から~
- 【まとめ】本格的な訪日インバウンド再開に向けて ~2つのハードル~
海外の旅行業界誌である「Skift」では、「観光目的での入国者数以上に、ウクライナからの難民を受入」と、日本の観光客に対する水際対策の厳しさを指摘する記事を掲載しました。2022年6月10日の入国規制緩和後、7月10日までの日本への観光目的の入国者数は1,452人に対し、ウクライナからの難民受入人数は1,586人と指摘。日本の水際対策は、世界の入国条件の中でも最も厳しい部類に入り、他国と比較して一人負けしていると評価されています。
また、法務省の「出入国管理統計」によりますと、コロナ禍前である2019年の1日あたりの入国者数(日本人・外国人含める)は約14万人でしたが、2022年6月時点では約1万1千人と、入国者受入の上限が2万人に対して、まだまだ余裕がある状況です。
2022年6月10日の入国制限緩和後、最も早く催行されたインバウンドの団体ツアーは、6月22日に来日した香港からの10名の団体でした。また、香港の大手旅行会社2社では、入国制限緩和後、ウェビナー開催日である8月3日までで合計12本催行、両者ぞれぞれ、週に1団体は観光目的で来日している計算になります。
コロナ禍前では、4泊5日での滞在日数が主流だったところ、7泊以上に増え、さらに、ツアー費用が8万円~17万円でしたが、34万円以上(隔離ホテル1週間分の宿泊・食費込み)と、2倍以上に増加しています。
実際に催行された7泊8日のツアーを例に見ますと、もともと6月17日催行予定のところ、ビザの発給が間に合わず、最終的に6月24日出発でのツアー催行となりました。
また、ツアー費用には、香港帰国後の隔離ホテルの宿泊費用や日本でのPCR検査も含まれ、1人当たりの料金が約38万円となっています。料金としても高価格帯になっていますが、現在ではこのような高い料金を支払える方が来日する傾向にあります。
6月24日に催行したツアー帰国時の様子。定期便の飛行機ですが、他のお客様が一人もおらず、貸切状態に。
香港からのアウトバウンド状況として、コロナ禍前の2019年では、中国本土を除き、日本が渡航先のトップに位置し、全人口の3.3人が1年間に来日した計算になります。しかしながら、2022年1月~5月における各国出入国統計の累計を見てみると、日本のシェアは1.01%まで減少しました。ビザの取得や団体旅行のみと、日本の水際対策が厳しい一方、制限のないシンガポール・タイ・オーストラリアに観光客が流れていることが主な理由です。
※香港帰国後の7日間の隔離条件は共通なものの、日本が求めているビザの取得や団体旅行のみの入国条件が旅行者にはネックとなっています。
旅行中のアクティビティや、現地ツアーのオンライン予約を取り扱う「KLOOK」が香港のユーザーを対象とした2022年6月の調査によると、コロナ禍以降に訪問したい国、地域として、日本が1位となっています。しかしながら、実際の訪日数はシンガポール・タイ・オーストラリアと比較し、著しく少ないことから、高い訪日需要を取りこぼしている状況と言えるでしょう。
対象を広げて、東南アジア・台湾・香港・中国の「KLOOK」ユーザーへの調査では、「入国規制撤廃後、どれくらい日本に行けるのを楽しみにしているか?」という質問に対し、8割に近い訪日意欲の高さがありました。一方で、「日本旅行の時期はいつ頃に考えていますか?」という質問に対しては、2022年冬以降が過半数を占め、2022年の秋時点でまでの訪日意向は、17%と低い結果となりました。
また、「団体や日帰りのアクティビティへの参加について、どれくらい意欲的ですか?」についての回答は、過半数の方が「団体旅行はできるだけ避けたい」と否定的な意見であり、日本が設定している団体旅行のみという制約が、訪日需要の取りこぼしの一因になっていると考えられます。
日本人・外国人含めた入国者について、空港別での統計によると、2019年は半数が成田・羽田空港を利用し、4分の1が関西国際空港を利用していました。しかしながら、2022年6月についてみると、関西国際空港からの入国者が11%と減少しており、関空への国際線運航再開が、進んでいないことが分かります。
KLOOKの調査結果や、日本と比して水際対策が緩和されている国に渡航需要が流れていることから、訪日需要が伸び悩んでいる要因として、2つの大きなハードル、つまり「ビザ取得」と「団体旅行」があると考えます。まずはこの2つを優先的な課題として、緩和に取り組んでいく必要があります。
団体旅行は避けたいというマーケットの意見があるなか、どうしても今日本に訪問する理由がなければ、個人旅行の解禁を待つ選択肢を取る方が多いと思われます。
また、これまで多くの国、地域からの渡航で不要であったビザについて、取得が条件となっており、時間とコストの増加につながりネックとなっています。
そして、香港からの訪日ツアーで、関西方面へのツアーが少ないことからも分かる通り、関西国際空港の国際線発着便が少ないことから、ALL関西で関西国際空港への国際線再開にに取り組む必要もあるでしょう。
訪日旅行中のマスク着用義務やPCR検査については、日本国内でもコンセンサスが取れていない問題で、インバウンドから先行して制限を緩和することは難しいと考えます。改善に向け、優先的に取り組むべきと指摘した「ビザ取得」「団体旅行」について、日本人が海外に渡航する際には制限されているでしょうか?
例えば、日本人の海外渡航で、ビザが必要なのは現状韓国くらいであり、それ以外の国は日本人観光客に対してビザを求めていない国が大多数です。また、日本人の海外渡航において、団体旅行しか認めていない国があるでしょうか。国際的な相互主義の観点からも、ビザ取得の条件(→ビザ免除措置の再開)と団体旅行のみの水際対策の緩和が求められており、それらが緩和されることで初めて、事実上のインバウンド再開に繋がると考えられます。
このレポートは、データ月報に関するウェビナー「宿泊データから読み解く京都観光のこれから」から抜粋してご紹介しています。
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プロフィール
公益社団法人京都市観光協会 アドバイザー
日本政府観光局(JNTO)にて、日本のインバウンド誘致に14年間従事、うち9年を香港、シンガポールに駐在、海外の現場でのマーケティング、誘致施策を実践、現地視点での誘客、データに基づく分析力を磨く。香港にてJapan Tourism Research & Consultancy Limited社設立、代表取締役社長就任(2018年6月)。
香港、シンガポール等、個人旅行、英語圏アジア市場をフィールドとして、訪日インバウンドに関する調査、戦略立案から、広報、イベント実施まで、ワンストップでのソリューションを提供。
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