京都観光モラルワークショップ(第1回)
~観光モラルについての理解を深める~

UPDATE :
2021. 09. 10

長らく続いた緊急事態宣言が解除され、京都の街にも少しずつ活気が戻ってまいりました。昨年の秋のような賑わいが期待される一方で、新型コロナウイルス感染症の再拡大や混雑、渋滞などの問題が再び起こることを心配する声も聞かれます。そこで京都市観光協会では、コロナ禍以前の京都観光の姿には戻さないようにするために「京都観光行動基準(京都観光モラル)」を2020年11月に京都市と連名で発表し、京都観光に関わる全ての皆様がお互いを尊重しながら持続可能な京都観光をともに創りあげていくことを目指してきました。この「京都観光モラル」では、これまでの観光客に対するマナー啓発とは異なり、観光業界の事業者や従事者、市民のみなさまも含めて、お互いに大切にしたいことを定めて普及・啓発に取り組んでいます。

なかでも、約1,500社の会員事業者を抱える京都市観光協会では業界で働くみなさまを起点に取組を広げることを目指しており、その手始めとして、業界からの有志と京都大学観光MBAの学生をお招きしてワークショップを開催しました。このレポートでは、そのワークショップの第1回目(2021年9月2日開催)の様子をお伝えします。第1回は、オンラインミーティング形式での開催とし、初対面である参加者同士の関係性を築くこと、また京都観光モラルに対する理解を深めていただくくことに焦点を当てました。読者のみなさまも、このレポートを通して「京都観光モラル」について考えていただく機会になれば幸いです。

ワークショップの開催にあたって

ワークショップの開催にあたり、まずは、本ワークショップの目標を参加者全員で共有し、ゴールの目線合わせから始めました。

ワークショップの目的

  • どんな立場の人でも、京都観光モラル実践の一歩を踏み出すきっかけとなる普及啓発ツールのアイデア出しをする。
  • アイデア出しの過程で、お互いのこれまでの取組や気づきを共有し、京都観光モラルに対する理解を深める。

つぎに、参加者全員が今回初めて顔を合わせるため、自己紹介に加え、ワークショップへの期待、コロナ禍で抱えているそれぞれの課題等を共有し、ワークショップに臨む決意を新たにしました。

所属 氏名
株式会社北原(旅館こうろ) 北原 達馬  様
松井旅館 松井 もも加 様
京都東急ホテル 渡邊 夏未  様
リーガロイヤルホテル京都 齊藤 浩之  様
株式会社美濃吉 山畑 勝寛  様
株式会社祇園辻利 松田 紋女  様
京阪ホールディングス株式会社 朱  暁斐  様
京阪バス株式会社 日野 明教  様
西日本旅客鉄道株式会社 梶原 弘靖  様
京都大学経営管理大学院 淺井 忠博  様
京都大学経営管理大学院 鎌田 直美  様
京都大学経営管理大学院 佐藤 亜美  様
京都大学経営管理大学院 髙畑 岳司  様
京都大学経営管理大学院 長尾 瑞惠  様
京都大学経営管理大学院 藤本 賢司  様
京都大学経営管理大学院 山下 愛智  様

参加者の主なご意見

  • 旅館業はかなりコロナの影響を受けている業界であるが、普段できないことができる時間だとポジティブに捉えて、良い繋がりが生まれて欲しいとの気持ちで参加した。
  • 様々な業界の方々と触れて学びを得たい。
  • 自身が外国人として日本で働いていて外国人観光客の気持ちを理解しているつもりなので、そのような視点も織り込んで今回のテーマを考えていきたい。
  • 過去に大企業に勤めていた経験があるが、大企業では地域に根差した取組みがあまり見えてなかったため、本ワークショップでは、地域の視点も踏まえて参加者の方々から学んでいきたい。

京都観光モラルについての説明

つぎに、京都観光モラルについての理解を深めていただくため、事務局である京都市観光協会より改めて説明を行いました。

約50年前の京都市の観光客数は、現在の約半分程度でした。1970年の大阪万博で観光客が3,000万人を突破したことがきっかけで、この当時からすでに観光客数を単純に増やすことを目指さない方針が掲げられています。しかしながら、2000年代に入り観光客5,000万人構想が新たに打ち出され、政府のVisit Japanキャンペーンも相まって観光客数の増加が始まりました。東日本大震災からの復興が進み外国人観光客が急増した2014年以降、オーバーツーリズム問題が懸念され始め、今日に至っています。

京都市民を対象に毎年実施されているアンケートでは、政策分野別に市民からの評価を5段階で回答してもらう定点観測結果を発表しています。観光分野に関する設問のうち、とくに京都観光モラルとの関連性が高い2問について平成24年(2012年)以降の推移を見てみましょう。「大変そう思う」を2点、「まったくそう思わない」をマイナス2点として平均値を集計したところ、どちらの設問に対する回答もゼロを上回っていることから、肯定的な回答のほうが多数派の状態が続いていることが分かります。しかしながら、ここ数年間で悪化傾向となっており、徐々に観光に対する市民感情が否定的になりつつあることが懸念されます。

そこで、2020年11月に発表されたのが「京都観光モラル」です。とくに、観光客と観光事業者に対しては、それぞれの実践内容を4つの分野に分けています。これらの分野に該当する具体的な取組を明らかにし、一人ひとりの実践を促していくことにつながるようなアイデアを考えることが、今回のワークショップの一番の目的です。

事例を通して京都観光モラルへの理解を深める

次に、「京都観光モラル」への理解を更に深めることを目的に「観光地におけるゴミの取り扱い」に関する架空のエピソードを題材として、登場人物の不適切だと思われる「振る舞い」や、どうすれば問題を防ぐことができたかについて考えていただく機会を設けました。最初に、ひとりで問題について考えたあと、その結果をグループで共有し、グループとしての結論を決めてもらうという流れで進めます。このワークの狙いは主に以下の2点です。

  • 観光客だけでなく、観光に携わる事業者や従事者といった様々な立場の方にも「モラル」に沿った「行動」や「振る舞い」があることを意識すること
  • 異なる意見を持つ相手とディスカッションし、グループの合意形成を行うための信頼関係を構築すること

京都観光モラルのケーススタディ(観光地におけるゴミの取り扱い)

  • 普段、東京で働いているAさんは久しぶりに京都へ旅行しようと思い立ち、京都在住の友人であるBさんに連絡し、一緒に観光することにしました。Bさんはインターネット検索で上位に表示されたいくつかの旅行サイトを参考に、最近流行りのスポットをいくつか調べて当日のプランを提案。朝、京都駅で合流して1日を過ごすことにしました。
  • メインの目的地である嵐山竹林の小径近くのお店で、インスタ映えのスイーツを発見したのでスイーツ店Cで思わず購入。竹林を散策しながら食べ歩きをしたあと、使い捨ての容器を捨てようと思ったものの、近くにゴミ箱が見当たりません。
    お店に戻って捨てようにも大幅な時間ロスになってしまいます。しかたがないので、そのあとのランチで入ったレストランで、ゴミを捨ててもらえないか店員Dさんに聞いてみたところ、店員Dさんは快くOKしてくれました。
  • ところが、店員Dさんがお店の裏で預かったゴミを処理しようとしていたところ、店長Eさんがものすごい剣幕でやってきて「なんで、よそのゴミをウチで処分してるんだ!今月のウチの店のゴミ削減目標達成できなかったら、本社からの査定に響くじゃないか!」と店員Dさんは叱られてしまいました。
  • 店員Dさんは自分でそのゴミを持って帰ることに。腹が立った店員Dさんは退職を決意し、SNSでその日あったことを、 レストラン名を開示し、ゴミの写真とともにツイート。投稿は瞬く間に拡散され、翌日にはレストランとゴミの発生源であるスイーツ店に抗議の電話が殺到してしまう大騒ぎに。

以上のエピソードを読み、Aさん、Bさん、C店、Dさん、Eさんの行動や振る舞いについて不適切だと思った順番を、一人で考えてもらう時間をとりました。そのうえで、参加者を3つのグループに分けて、各グループ内で結果を発表し合いグループとしての結論を出してもらうこととしました。

Aグループの結果と、主な意見

  • 最も不適切だと思う人物が「地元民B」という意見と、「店員D」という意見に分かれ、時間内で結論出ず。
  • そもそも「食べ歩き」という行為自体が悪いのかどうか、という論点がある。
  • 店がどう客を教育するか・注意喚起するかが重要ではないか。

Bグループの結果と、主な意見

  • 1位は店員D。ゴミを受け取ったところまでは親切で良かったが、後々SNSにアップする という行為は良くない。
  • 2位は店長E。頭ごなしに怒るのは良くない。本社の方針を店員にしっかりと周知徹底するべきである。今回だけでなく、日常的に起こり得ることなので罪深い。
  • 3位は地元民B。自宅が近いかもしれないので、持ち帰るべきではないか。
  • 4位は観光客A。地元民B同様持ち帰るべき。購入した店以外でゴミの処理をお願いすることはいかがなものか。但し、ゴミ箱がどこにも設置されていない問題はあるだろう。
  • 5位はスイーツ店C。食べ歩きの商品を売っている以上、ゴミの取扱いまでの配慮は必要だが、食べ歩きのモノを売ること自体は悪いとは思えない。

Cグループの結果と、主な意見

  • 1位は観光客Aと店員D。旅先を訪れる一人の観光客として、京都の景観を汚してはならない。食べ歩きしたゴミは持ち帰るべきである。観光客としての意識を高めることが大切である。店員Dは、SNSで店舗名を特定できる情報を発信するという行動は、トラブルを招く可能性があるので、避けるべきである。
  • 2位はスイーツ店C。食べ歩きを前提にするのであれば、お客様がどのような食べ方をするのか想定すべきであり、ゴミ箱を設置するといった配慮が必要である。
  • 3位は地元民Bと店長E。地元民Bは自分が出したゴミは持ち帰るべきである。店長Eは個人的な査定に囚われて、バイトを叱責するべきでなく、地域全体のことを考える必要がある。
  • その他として、ゴミ箱の設置を観光協会に求めることも必要ではないか。竹林にゴミ箱を置いてないのは意図的なのかという意見も挙がった。

グループワークの様子

まとめ

立場によって京都観光モラルに対する見え方が違うことが、各グループからの発表を通して実感することができました。今回は「観光地におけるゴミの取り扱い」をテーマにしましたが、様々な視点でモラルについて考えられます。第1回のワークショップでは、どのような「行動」や「振る舞い」が問題であるか、という ”粗探し” の視点を中心に議論をしましたが、次回は問題とされる 「行動」や「振る舞い」をどのようにすれば防げるのか、普段何を考えておけば避けることができるのかといったような ”ポジティブな” 視点に意識を向けていきます。普段の業務や経験に照らし合わせて、京都観光モラルに沿った適切な/不適切な「行動」や「振る舞い」について、次回のワークショップレポートの更新をお待ちください。

この記事は、京都観光行動基準(京都観光モラル)の普及啓発を目的とした業界ワークショップの結果についてお伝えする連載記事です。

第1回:観光モラルについての理解を深める
第2回:課題解決につながるアイデア出し
第3回:事前発表会
第4回:発表会

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